20100919

「あほー、需要なんだってば。」 by Paul Krugman from NT

現場に出ていて読めなかった RSS をさかのぼる途中、himaginary さんの記事「中小企業にとって何が問題か?」にいきあたりました。彼の記事にあったポールくんのブログを読むために翻訳。原文は「It's Demand, Stupid」。つか 『himaginary の日記』 読んでね。そのほうが広がりがでるので。

脈絡ないけど、2000年代初頭、僕がインドネシアで "開発協力って何じゃらほい" のまま挫折し、そのあと日本の田舎に引きこもっていた頃、田舎で "いちご掲示板" のみなさんや田中さん、山形さんに励まされ、なんとかここまで生きてきました。そういうのを思いだしました。訳しててだんだん頭に来たのが正直なところ。

では、毎日楽しくくらしましょう。 Goooood Day!!


September 15, 2010, 3:36 pm

あほー、需要なんだってば。

これ前にも言ったよね。キャサリン・ランペルがつくったとてもよい図があって、要点がわかりやすい。 もし君が (ロビイストではなく...) ビジネスを云々したいなら、政府による介入とか、政治がこの先どうなるかなんてことをいつものように探ってもなんのヒントも得られない。ビジネスっていうのは売れなきゃ人を雇わないんだって。以上、ピリオド。終わり。

(キャプション: 中小企業が "もっとも重要な要素だと思っていること↓ (訳注: from What’s Holding Back Small Businesses? by CATHERINE RAMPELL) " ナイスな図!!

で、ビジネスのために政府ができて、一番よくて、彼らにできそうなこと。それはもっと政府がお金を出すこと、そして世の中の需要を増やしてやることだ。 (訳注: アメリカでは...かな) 現実的にはそんなことはおきない感じだけど、僕がここで言ったことが単純な (訳注: 学問上の) 真実なのは動かせないわな。

20100911

「さらに膝とペダル軸との位置関係について。+ ペダリング技術 vs ポジション」

ロードレーサーに乗りはじめたとき、困ってしまうのがポジションの問題。ペダルに固定される足の位置や向き、シートの高さや前後の位置、ハンドルの高さ遠さなどなど。文中に出てくる KOPS は "Knee Over the Pedal Spindle" の略称。どの本でも雑誌にもでてくるアレ。

自転車乗りなら知っている cyclingnews.com には 「Fitness questions and answers」 というコーナーがあります。その August 23, 2004 版から抜粋。原文はここ。金がなくて自転車ばかり乗っていた頃、毎回楽しみにしていました。いくつかは自分のために訳したり。下のやつでは読者とスティーブさんのやりとりが印象的です。ふとひっぱりだして掲載。あと、文中の強調は訳者によるものです。

ではみなさん、楽しい自転車生活を!!

スティーブさんはオーストラリアでお店をもってますよ。Cyclefitcentre.com 参照。


膝とペダル軸の位置関係とポジションの問題について。

KOPS とその有効性についての議論を楽しんでいます。

KOPS セッティングは前すぎのように感じて、最近ポジションをいじりはじめました。少し調整するごとに数日乗ってみて、KOPS の理想値より数センチ後ろのポジションで気持ちよくリラックスして乗れるのを発見しました。どこもしびれませんし腕や肩もまったく疲れません。エアロポジションにも支障ありません。膝にもまったく問題ありませんし、手放しテスト (訳注: スティーブさんがポジション決めの際に参考にするテスト) だってパスできます。つまりどんぴしゃってわけです。膝がペダル軸の後ろに来すぎているんじゃないかという心配をのぞけば... 2 センチ以上も後ろなんです。シマノのペダルで固定クリート (訳注: 赤いやつね) を使ってます。

色々いじってみて一つ気づいたのは、お気に入りのサドルのかなり後ろに腰かけるのが好きだということです。というわけで、やり過ぎを心配してます。サドルの後方によい位置を見つけましたが、以前にも座りやすい位置を見つけようとサドルを引いたことがあったのに思いあたりました。よい結果を求めてやり過ぎてしまったのです。

(膝が) ペダル軸のどれくらい後ろだと後ろ過ぎになるのでしょうか?

もっと実際的には、警告ベルが鳴り止むとすればそれはどれくらい後ろの時になるのでしょう。サドルの前後調整についてアドバイスするのは、調整後にサドルの同じ位置に座っているかどうかをなかなか判断できないのでかなり難しいです。なので、もうひとつ別の質問をしておこうと思います。

サドルやその前後についてどうアドバイスしていますか?

乗り手は自然にもっとも快適なサドル位置に落ちついていくのものなのでしょうか。それとも、たとえ見かけは変でも、僕ら乗り手が動いておちついたところが最適な位置なのでしょうか?

Dean Georgaris

Steve Hogg replies:

ポジション調整で、きみが発見したよい点は僕が常々言ってきたことと同じだけれど、はまりやすい所がいくつかあるんだ。

1. ほとんどの人は、上半身にかかる力をある程度取りのぞいてやると、遠いハンドルに手が届きやすくなる。これは数ミリから数センチだろうね。ふつうは同時にハンドル位置も再調整する必要があって、通常は微妙に高くなりステムも変えねばならないかもしれない。

2. ペダル軸からどれくらい後ろに膝があるべきか。これについて確固たる数字はないんだ。僕は数年前に自分の経験を信じるようになってから、この部分を測るのをやめてしまった。これが個人的な値だということしか言えなかったんだ。この値はペダリングしてない時の関係を測っていることに気をつけて。でも実際には僕らはペダリングするわけだ。昔僕がこれを測っていた頃、その幅は 5 ~ 50 ミリで多かったのは 10 ~ 25 ミリ。でもこれは 5 年ちょっと前で、それ以降、僕の考えややりかたは進化し改善されてるってことも覚えておいてね。

3. きみが後ろすぎだとすると、明らかになることがふたつある。シッティングのペダリングからスプリントでのダンシングへの移行がぎこちなくなり、時間がかかるようになること。もう一つは、ハムストリングスのふくらみが厳しい登坂でかなり痛んだり、制限要因になりやすいということだ。

4. きみが書いていることは問題ないみたいなので、心配しなくていい。ただの数字だよ。ひとつ話をしてあげよう。レースの最中、僕にいつもポジションのアドバイスを求めてくる奴がいた。僕はその度「ひどいね、シートチューブが立ちすぎだよ」と言っていた。彼とは数年会わなかった (僕には家族ができていたし) んだが、ある時、Trek OCLV のシートチューブ角が 72 度の一番でかいサイズのフレームを買ったんだって連絡をもらった。すごい。なんて違いだ。彼を見て、やっぱり僕は正しかったと思った。ポジションがよくなったのは自分でもはっきりわかってたけれど、彼はそれでも僕の意見を聞きたかったってわけ。で、TIME のシートポスト (もう売ってない) でさらにサドルを 30mm 引いてあげたら、彼は力を出しやすくてスムーズだって有頂天。今なら、お金を預けてもらって、カスタムフレームを使うところだけれど。シートチューブ角は 69.5 度が効果的だ (彼は普通の人じゃなかった!) って言ったときの "そんなの乗れない!" っていう反応が笑えた。彼は丘陵地帯に住んでいたんで、ポジションの善し悪しはすぐわかるだろう。これで試しに乗ってみてよって言ってさよならした。4 週間以内に、お金を払うか気に入らないからシートポストを返すか電話で話しあうことにしておいた。後の電話で、前よりどれくらいうまく乗れるようになったか、今のシートチューブ角がぴったりなのでフレームを新しく買う気はないことを話してくれた。そう、これはただの数字だ。

5. この話はみんながみんな、サドルをぎりぎり後ろに引けってことじゃない。この経験が僕に何か教えてくれたとすれば、それは、ポジションについてはその人にあわせた答えしかないってこと。そして、包括的なやり方ってのは本質的に無効なんだってことだった。

6. 梃の力が増したように感じるけれど、速く回せなくなるっていうのは後ろすぎだ。正しくやれば、梃の力が増したように感じるのは、強くなったわけじゃなく、広い範囲でクランクに力をかけられるようになったからだ。だから回転もよりスムースになるはず。

きみが言っていることから判断すると、別に心配するようなことはないと思う。そうじゃないって言う時はまた連絡をください。

[Dean then responded:]

特定の人にぴったりのサドルを見つけるのがどんなに難しいかよくわかりました。例えば、先日の新しいポジションだと、ペダルを "踏んで" (訳注: hammering) いなくとも、サドルの前にずれれば好きな時に使う筋肉を変えられます。けれども、これにはサドルが制限要素になってしまうのです。サドルの曲がりがきつすぎて腰をずらし難くなっているのでしょう。

厳しい坂を登ってみて、以前とは違って両脚の前後を均等に使えていることがわかりました。前は大腿四頭筋をより使っていたのとは対照的です。ほとんどの間、ケイデンスは 95 回転なので、大腿四頭筋には問題ありません。腰を引いたポジションにするとたぶんケイデンスが少し減るでしょうけれど、僕の場合は脚の梃の長さが長くなったからですよね?

そのうち、ポジション調整後の数百キロで感じたことを書きこむつもりです。

Steve Hogg replies:

我々が選ぶ機材で、人によって一番異なるのはサドルなんだ。坐骨のまんなかに体重をかけるべきなんだけれど、市場に出まわってるサドルのほとんどは、サドルの先端を 1 ~ 2 度上向きにしないとこれが実現できない。サドルが気になるくらいたわむなら、買い替えの時期だね。軽量サドルは長く使うと断面がハンモックのようになって、いつまでもゆらゆら腰が安定しなくなってしまう。このサドルだけってわけじゃないんだけれど、有名な Selle Italia のフライトシリーズではこの傾向が顕著。僕の場合、お客さんがフライトを使ってるエリートライダーだったら、新品のうちに上にまっすぐなものを乗せて、サドルのへこみ度合を測っておく。ふつうは 3 ~ 4mm だ。うちの店ではこれが 2mm 以上沈んだら取り換えてる。

ふたつめの話は意味がよくわからない。脚の長さやその部分部分の長さが、大人になってから変わるものかどうかわからないし。サドルの後ろに座れば、クランクが描く円のより広い角度で力を加えられるようになる。これは上下の "死点" の影響を教えてくれるものだってこと。上死点付近ではいくぶん早く、下死点付近でもいくらか早く引けるようになる。こうすることで "力が入る" 部分への移行がスムーズになり、力の大きさの変化も少なくなるっていうわけだ。試しに度を越えて後ろに座ってみよう。すると脚の動きを一番うまくコントロールできる位置から外れてしまうのがわかるはず。さらに、きつい坂では重力との関係が変わって、機能的に意味あるシートチューブ角が小さくなる。ペダルを前で引っかいているように感じるのは、脚が下死点に届きにくくなり、力をかけてコントロールするのが難しくなるからだ。

きみが言ってる膝から上の筋肉を "きっかり均等に" 使っている感じは、ぼくらみんなの努力目標にすべきだね。大腿四頭筋のふくらみにぐっと力が入るのをいつも感じるようなら、サドルが前すぎなのはほとんど確実だよ。

ペダリング技術 vs ポジション

[Following on from the above discussion, Dean then asked:]

最後にやっかいな質問を。技術についてはどうでしょう?

オリンピックの水泳選手をみればひとかきひとかきが適切な技術をともなっているのは明らかです。同じ技術は初心者も教えられます。テニスのストロークやゴルフのスイングなど、ほとんどのスポーツでこれは同じでしょう。違いはあるでしょうが、多くは理想的なスイングのように議論されます。

これと同じことがペダルストロークについてなされることがあまりないのは何故なのでしょうか? ランスがペダリングしているのを見て、真似したくなりませんか? 僕は筋力がそれぞれの人で違うのを知っています。でも他のスポーツでは、たとえ初心者レベルでも、適切な技術を探しつづけています。心拍数についてよく耳にするのに、ペダルストロークについてはほとんど耳にしないのは何故なのでしょう? 適切なペダルストローク (があるとして) を実現できれば、驚くような改善が見られるのではないでしょうか。

ポジションについてのあなたの考えは上記のようなことを目標にしているのでしょうか。技術に応じてポジションを調整すべきですか? かわりに技術を完璧に近づけるべきではないでしょうか?

Dean Georgaris

Steve Hogg replies:

すばらしい質問だ。まず、僕は水泳の技術的なことは知らないも同然なんだが、友だちによると "正しい" 技術とされるものの中にも、個人的なスタイルがあるんだそうだ。なんで、きみの例えが適切かどうかははっきりしないということ。まぁしかし、言わんとすることはわかる。自転車界でペダリング技術について言われていることは、水泳のストローク技術で言われていることよりずっと幅広いみたいだ。

例えばフリースタイルで泳ぐにしても、体つきやその機能のしかたで、ひとつの "ポジション" -- 例えばうつ伏せになったときの水面に並行な度合とか -- には人それぞれ違いがあるよね。自転車に乗るにしても体つきやその機能のしかたは人によって違う。自転車の場合だと、この違いは機材選択のちがい、どこをどうポジション調整するかの違い -- サドルやクリート、ハンドルの位置、そしてこれらの相対的な位置関係 -- に直結するわけだ。このことはペダリングスタイルの違いが水泳のストロークの違いより幅広いことを説明してくれる。自転車の乗りがいじくりまわせる機材は水泳選手より多いってことだ。

じゃあテクニックが違うとどんな影響があるんだろうか? 自転車界でメジャーなスタイルは 3 つ。一番多いのはダウンストロークの上半分で踵を落とし、ダウンストロークの下半分のある時点で踵を持ち上げるタイプ。これを山田太郎くんタイプと呼ぼう。で両極端に、つま先下がりタイプと踵落しタイプ。ほとんどの人がどれかなんだけれど、これらのタイプの中でもテクニックには違いがあるってこと、これはお仕着せじゃないってことを誤解しないでほしい。で、他より効率がよいのはどれかっていうのが疑問点なわけだ。

そんなのない。理由は以下。人を (機材やポジション調整抜きに) ある特定のスタイルでペダリングさせようという試みは、レースと同じくらいの強度になった時に失敗するみたい。例えば、心拍数 90% 以上のつらいときなんかがそれ。こんな状況では一回一回のペダリングを考えることなんてできないんで、その人にあった自然なやり方に戻ってしまうってわけだ。そういうわけで、さっき括弧つきで示したように、その人にあったペダリング技術があると僕は思ってる。ペダリング改善したいならたくさん乗ること、そして乗ってないときにも姿勢を矯正しておくこと。自分に自然な動きをなめらかにできるようにするためだ。

ひとつ注意しておきたいのは、プロポーションが同じ人でもペダリングスタイルが違えば、サドルの前後位置や高さも違ってくるということ。極端に踵を落とすスタイルの人は、相応の力でペダリングすればペダリングのたびに自分を後ろに押していることになる。なわけで、そんなに後ろに座らなくても腰が安定する。静止状態で腰を安定させるっていうのは僕がいつも口をすっぱくしていっていることだよね。さらに、このタイプの人はサドルをより低くする必要がある。踵を落とすペダリングでは、サドル高が同じでも踵を落とさない人よりも脚を伸ばさねばならないというのがその理由。他はおんなし。踵を落とす人はつま先下がりの人より足を第二の梃として使う度合も強い。踵を落とすタイプの人を、僕は "小さなストロークでより大きな梃の力を得るタイプ" って呼んでる。

逆に、つま先下がりの人は、足を第二の梃として使う度合があまり大きくなくて、あきらかにサドル高が高くなる。技術のおかげで脚がより遠くに届くからだ。このタイプの人のサドルは、踵を落とすタイプの人にくらべてかなり後ろにくる。つま先下がりテクっていうのは、ペダル上の主なベクトルが後向きになってるってことだからだ。これは同時に体重が前にかかりやすいということでもある。したがって、静止状態で腰を安定させるためにはサドルより多く後ろにひいてやる必要がある。このタイプは "大きなストロークで小さな梃の力" と言ってもいいだろう。

しかーし、僕らの多くはこのふたつの両極端のあいだ、山田太郎くんタイプだ。男は (例外はたくさんあるけど) 踵を落としがちで、女は (これまた例外は多い) つま先でペダリングする傾向がある。

偉大なチャンピオンたちを見てみようか。メルクスは踵を落とすタイプで、イノーは山田太郎くんタイプ、アンクティルはつま先下がりになっている。彼らひとりひとりが史上最高の自転車乗りだ。なかでもアンクティルはたぶん二番手だけど、タイムトライアル選手としては史上最高だろう。三人が三人ともツールドフランスを 5 度優勝し、他のレースでも強かった。僕の記憶では、アンクティルは 14 年間に Grand Prix de Nations で 10 勝はしたと思う。この TT レースを 10 勝もすれば地球最強の自転車乗りの称号にふさわしいと思うでしょ?

きみが機材とポジションに満足なら、メルクスがある少年に尋ねられたときに答えたように、"たくさん乗れ" というのが、僕からみんなへのアドバイスだ。

自転車に乗ってひとつの動作を何百回、何千回、何万回とくり返せば、僕らの姿勢やポジションは鍛えられ、洗練されていくってことだよね。

20100905

セントルイス連銀の記事から: 「インフレ予想について -Expected Inflation Near and Far」

えーっと、『道草』でポールくんのディスインフレネタに出てきた "TIPS (Tresury Inflation-Protected Tresury Securities) " の参考にするために訳していたもの。原文は『Monetary Trends, Feb 2007. by Federal Reserve Bank of ST. Louis.』 (PDF直リンク)。アメリカのセントルイス連銀の記事ですね。


インフレ予想について -Expected Inflation Near and Far

原油価格や非金融的現象の変動は、インフレーションの短期的な見とおしによるものとみなされることが多い。経済学者の多くがこの考えを受けいれているものの、長い期間ではインフレーションは金融政策で決まる。したがって、長い目でみた時のインフレ予想というものは、おもに金融政策当局が目標とするインフレを国民がどう考えるかを反映するものだということだ。言いかえると、金融政策当局があるインフレ目標にコミットしているとみなされれば、原油価格やその他の非金融的現象は国民の見方にはあまり影響がないのである。

予想インフレ率を測定する際、研究者やアナリストはふつう調査や市況をみる。例えば、通常の財務省証券やインフレの影響を受けないよう調整された財務省証券 (TIPS) の同じ満期のものを選んで、そのイールドを比べるのだ。TIPS より通常の財務省証券のイールドが上昇していれば、市場の人々がその証券の満期までにインフレ率が上がると思っていることがわかる。[原注1]



図は 5 年満期の TIPS のスプレッドの月毎の値を 2004 年 1月から 2006 年 11月にわたってプロットしたものだ。2004 年と 2005 年のスプレッドの変動は大きく、不安定な原油価格とカトリーナとリタというふたつのハリケーン後の経済的見とおしの不確実さがあらわれている。それ以降のスプレッドの変化もエネルギー価格の変動と連動している。例えば、2006 年後半にスプレッドの値が急落しているのは、74 ドル/バレルだった 7月の原油価格が 10 月には 60 ドル/バレル以下まで大幅に値を下げたのと同期しているのである。

5 年満期の TIPS のスプレッドの値のような短期の予想インフレ率のものさしはエネルギー価格と緊密に連動しているが、より長期の予想インフレ率のものさしはエネルギー価格の変動の影響はあまり受けない。例をあげると、5-year forward TIPS のスプレッド (5年先以降の5年間の予想インフレ率を反映する) をみると、その値は原油価格より今から 5 年先までをカバーする TIPS のスプレッドに連動している。[原注: 2] 図には 5-year forward TIPS のスプレッドも示してあるが、その値は 2004 年以降 2.25 と 2.75 の間で、原油価格が下がった 2006 年後半でもそこそこ値を下げただけだ。フィラデルフィア連銀が発表する 「Survey of Professional Forcasters」 のように長期間の調査では、予想インフレ率はさらにずっと安定した値をしめしてきた。「Survey of Professional Forcasters」 による 10 年平均の CPI インフレ率の見とおしの中央値は 1999年以降、2.5% から上下 0.10% の幅におさまっているのだ。[原注: 3]

長期にわたる予想インフレ率のほうがより安定しているのは、市場の人々が原油価格の変動の影響は一過的なものだと考えているのをしめしている。国民が連邦準備銀行はインフレ率の低維持にコミットしているとということをしっかり信じつづけていたのがはっきりわかる。万が一、長期間の予想インフレ率が急上昇するようなことがあっても、それは原油価格を反映したものではなく、連邦準備銀行がインフレをチェックして抑制するというコミットメントの信頼性が問題になっているのである。

- David C. Wheelock

[1] An increase could also refrect an increase in inflation-risk premiums. For a discussion od the use of the TIPS yield spread as a measure of expected inflation, see Kevin L. Kliesen and Frank A. Schmid, "Monetary Policy Actions, Macroeconomic Data Releases, and Inflation Expectations," Federal Releases Bank of St. Louis Review, May/June 2004, 86(3), pp. 9-21.

[2] The 5-year forward TIPS spread is obtained by dividing the total inflation expected over the entire 10 years [(1 + 10 -Yr TIPS Spread)5] and then taking this ratio's 5th root (equivalent to raising it to the 0.2 power) to get the average annual rate.

[3] See www.philadelphiafed.org/econ/spf/index.html

まいど前置きが長くなりがちな tmpsoulcage です、こんにちは。イングランド銀行 (BoE) の金融政策委員会 (MPC) のポーゼンさんが 『The Economist』 に寄稿したものを翻訳しました。原文を紹介してくれた hicksian さんに感謝を。

MPC の人たちはけっこう頻繁に講演します。先日の Jackson Hole でも副総裁、チャールズ・ビーンさんが 「Monetary Policy after the Fall」 という題で講演していました。まぁ、65 頁もあるんですが、"まとめ" になっている部分もあるので興味のある方はどうぞ。

個人的なことだけれど、僕のささやかな労力と能力を『道草』をつくってくれた彼に捧げたい。


2010年6月1日の質問:
「世界経済にとってより脅威なのは、インフレとデフレのどちらですか? また、政治家や官僚は構造改革と総需要対策、どちらに力を注ぐべきでしょうか?」
への回答。

アダム・ポーゼン (寄稿者、2010年6月2日 16:54)

大部分のマクロ経済学者はデフレが悪だとかたく信じています。われわれマクロ経済学者は、どうしてそう考えるべきか、理由のリストを作ることもできますよ。1930 年代のデフレーションの不気味な影はとても根づよく残っていますね。それは次の両方のことからきています。ひとつは、1930 年代のデフレが実際の暮らしむきをひどく悪化させたということ。もうひとつは、1930 年代以降、じわじわと悪化するようなデフレというものを私たちがほとんど経験していないということです。このようなデフレの一番最近の事例は日本のデフレなんですが、状況は困惑してしまうようなものになっています。

日本でおきているデフレーションは、上のように私たちが怖がるほど破壊的ではないのかもしれません。とはいえ、かなり長続きしていますし、同時にずいぶん理解の難しい現象なのです。粘着性なのが日本のデフレでして、それは "10年間もいすわって、もっとひどくなるかと思えばそうでもなく、マイナス 1% で安定して" しまいました。それだけでなく、そのペースが速くなったり遅くなったりしましたし、目に見えるどころではない悪影響さえあったんです。標準的なマクロ経済モデルのどれを使っても、こんなデフレは簡単にはつくれないでしょう。それくらい理解するのが難しいということです。

日本では、インフレーションの指標がどれも 1995 年あたりでマイナスになりました。その後も 1999 年にほんの短期間もちなおしはしたものの、少なくとも 2004 年まではマイナスのまんまです。2001 年から 2006 年には、日本銀行がお手製の "量的緩和政策" を実施していました。しかし名目値的にはほぼ効果がなかったように見えます。そうです、2000 年代初期の GDP ギャップがまだ吸収しきれていなかったんですね。ですけれど、その当のギャップがどれくらいなのか、それをまっとうに評価するのが難しい。私自身、日本の潜在成長率を見積もってやってみました。でも、経済回復期にもデフレが続くような状況で、GDP ギャップがどれくらいあるのかを評価するのは難しかったです。仮にそのギャップが物価の下落圧力を受けとめてしまうくらい大きかったなら、どうして 1990 年代にデフレはひどくなっていかなかったんでしょう? 実際には年率でほぼマイナス 1% のままだったので、うまく説明がつかないのです。

デフレのコストについてももっと研究が必要です。私たちが日本のデフレを不気味に思ったのにはちゃんとした理由があると思います。でも、日本ではそのコストが私たちの予想より小さい感じがしますよね。デフレが経済成長の足をひっぱるのは間違いないし、いくら金利が低いといっても、政府が返さねばならない借金の利子分だってだんだん問題になります。日本の株安がつづいたのがデフレのせいなのは確かだし、そのせいで貯蓄に頼る人たちも消費しなくなりました。それでも日本は 2002 年から 2008 年にしっかりした回復をみせ、デフレの勢いはそれを妨げるほどひどくなかったんです。

供給されたマネーが莫大だった [訳注1] のに、それにインパクトがなかったようなのも難問です。現代の経済研究者のおおまかな見解だと、量的緩和政策は国民に対する中央銀行のコミットメントをつうじてインフレや金融政策への予想にはたらきかけるもので、資産やその他の物価をじかに変えるということはまずありません。つまり、日本銀行のデフレ対策で大事だったのは、「インフレ率がプラスで推移するという確かな見とおしが得られるまで、日銀は低金利をつづける」という 2002 年の発表なんですね。けれども、こうした現象を間接的にではなく、はっきり説得力あるものとしてとらえるのは案外むずかしい [訳注2]。そうしたことを私たちはみな心にとめておかねばなりません。近ごろほかの国々の中央銀行によって実施されている非伝統的な (金融) 政策についても同じことが言えるのですから。

2000 年代、日本の実質経済にはよかった頃もありました。そこには、他の主要市場ではなく、2003 年の 金融制度改革のおかげも幾らかはあったでしょう。その影響は広義のマネー [訳注3] の増加にあらわれてしかるべきだったのですけれど、そうなっていないのが現状です。

そういうわけで、デフレがはじまったときに金融政策で何ができるか、私たちはもっと謙虚に考えねばなりません。とくに、金利がゼロあたりまで低くなり、従来とは違った政策 [訳注4] をとる時にはそうでしょう。日本は金融政策をつかって手っとりばやくデフレから逃れることができませんでした。かの国の物価 (今のイギリスでも実はそうなんですが) の動きは、実施された債券買いとりの規模からすると、マネタリストを信奉する人たちの多くが予想したであろう動きとはかなり違っていました。日本をみていると、金融引き締めの不安を払拭するために量的緩和をつかうのはまったく正しいことだったのがわかります。でも、量的緩和政策の結果どうなるかは予測できるものではありません。短期間でデフレを克服できるような大きい成果がえられるかどうかさえわからないんです。

訳注1: 原文は "huge monetary creation"。

訳注2: 原文は "it is rather difficult to discern this effect in any convincing rather than suggestive manner." となっています。

訳注3: "broad money"。 取引や決済に使われる通貨と貨幣だけでなく、財産としてのものも含まれる。

訳注4: 原文は "unconventional measures"。

インフレ目標2%を断行せよ