cyclingnews.com のfittness コーナーでもう10年くらい相談をうけている、スティーブさん(Steve Hogg )が2006年に書いた記事、「The problem of pelvic symmetry - an answer at last!」の翻訳。原文はググってね。
2011年8月30日18:06 追記: スティーブさん、今年からブログをはじめたらしい。→ http://www.stevehoggbikefitting.com/
【使用上の注意 その1】 ネタになっているFSAのK-force、代がわりしてしまって、ヤグラは"Delta Head"から"Minimal Top Clamp"にかわってるので、2011年版のポストにはそのまま適用できない(はず)。でもアイディアは使える。僕が実際やってみたころ(2006年ころ) はたしかに下の文章のようだったんだけど、残念。
【使用上の注意 その2】 肝心の"あなたの場合サドルを左右どちらにずらすべきか、またそれをどうやって判断するかについては書かれていない"。前出の fittness コーナーの過去ログを読むと、"体のねじれや使いかたのクセ"と"乗車姿勢やパフォーマンス"の関係は人によってさまざま。過去ログをあさればヒントはあるものの、くれぐれも試す際にはオーバーなくらい少しずつやるのが吉。もちろんミリ単位で。自分の体がどうねじれているのか、それはなんでなのか、骨のせい(長さとか)なのか筋肉のアンバランスのせいなのかをよく知るのも大事。"leg length discrepancy" でググって頂戴。(ちなみに僕の場合、パフォーマンスはあがったけど日常生活に支障がでました。体がすごくねじれてるようです...orz)
2006年4月24日
はじめに
ほぼすべての人は自分の体が左右対称だと思っているんじゃないだろうか。でもこれはありがちな間違い。たしかに鏡をみれば、僕らの目はふたつだし、耳も鼻の穴もふたつ、腕も脚も2本ある。しかし、よくみると体が左右対称だというのは思いこみだ。片方の手はもう片方より大きいだろうし足の大きさも左右で違うだろう。目も左右どちらかをよく使うクセがあるだろうし、手足には利き手・利き足があって不器用なほうがある。さらによ~く見ると、左右どちらかの肩が高くなっているかもしれないし、骨盤の高さも左右で違うかもしれない。足のアーチの形や回内・回外の程度が違っていて、それが他のものの原因になっていることもある。手足の長さが両方でおなじという意味なら、僕らはだいだいは左右対称だけれど (これも多くの人にはあてはまらないけどね...)、機能面では左右でさまざまにことなるっていうのが実際のところだ。
乗車姿勢という点にかぎっていえば自転車は左右対称な乗りものだ。サドルはフレームの中心線上にあって、クランクは左右おなじ長さでハンドルからおなじくらい離れている。つまり、機能的に左右非対称な僕らが自転車に乗るってことは、僕らが自転車という左右対称なモノに常に "あわない" 状態でいるってこと。その "あわなさ" の程度は大きかったり小さかったりするだろうけれどね。したがって、乗車姿勢の調整 (訳注1) の大きな役割のひとつは、乗り手をできるかぎり機能的に左右対称に近づけてやって、その "あわなさ" のクセや傾向を小さくしてやることなんだ。
僕は自転車に長くかかわってきたし、なん千というたくさんのお客さんもみてきた。そのおかげで、腕や脚の長さがいかに違っていようと、腰や膝や"くるぶし"が左と右でいかにちがった風に機能していようと、つねにその影響を最小限にする手だてがあることがわかった。体ができるかぎり左右対称に機能し、左右バランスよくコントロールできるよう乗車姿勢を調整するにはどうすればよいのかも学んだ。ひとつの例外をのぞけばだけどね!
問題
その例外っていうのは、腰が機能面で左右非対称になってしまっている場合。自転車にのっているときには、程度の差はあれ誰もが体の片一方を使いたがるものだ。すると、ペダルを踏みこむときに骨盤の片側 (訳注2) が感覚的にわかるくらい下がったり、前に回転したりする。ほんとうはダウンストローク以外の時もそうなっているんだけど、その程度は感じられないくらいだったり、それに近い状態だったりするんだろうと思う。
理想的な乗車姿勢では骨盤がその土台になる。骨盤の底の部分 ("ischial tuberosities"、坐骨) に体重の大部分がかかっているのが理想、代謝的にそれが一番だから。自転車にのっているときの胴体ってのは、
横からみると骨盤のところで一方だけ固定された梁のようになっている。両脚はその骨盤からぶらさがっているかたちだ。骨盤が傾いていたり左右どちらかにねじれていたりすると、左右の脚がことなる平面上をうごくことになって、骨盤からペダルまでの距離が左右でかわってくる。結果的に背骨が片ほうにまがってしまい、ハンドルバーまでのリーチが左右で異なってしまうことになる。たとえ腕や脚の長さがおんなじでもおきてしまうのがこの問題のこまったところだ。
体が機能的に左右が非対称になってても、僕らはみんな、自転車のうえでは自分が左右対称に機能しているもんだと思ってしまう。頭のなかで描いているイメージは左右対称だけれど、現実にはそうじゃないことが多い。たくさんの人がここからくる影響をいろいろなかたちで感じている。いくつかリストアップしてみよう。
- "力のつよい脚" と "力のよわい脚" がある。
- 片ほうの手により大きな体重がかかっていたり、片手だけしびれやすかったりする。
- 左右どちらかの坐骨により体重がかかっている。
- 片ほうの肩が痛んだり凝ったりする。おなじ症状が首のわきや背中の上のほうにある。
- 腰の痛みが片ほうでひどい。
- ペダリングすると、片ほうの足が内側をむき逆の足は外にむく。
- ペダリングしているときに、片ほうの膝が逆とくらべてかなりトップ・チューブからはなれる。
- ビブショーツ (や自転車用のパンツ) やサドルの脇が片ほうだけすり切れる。
- サドルと肌の擦れが片ほうでだけおきたり、片ほうでだけひどかったりする。
- 片ほうの膝はまっすぐ上下するのに、もう片ほうの膝は横にぶれる。
- 上記の組みあわせ。
ここに挙げた症状があれば、骨盤が非対称に機能している影響だと思ってよい。こういうことがおきるのは他の要素も影響しているのがふつうだし、機能的なものではなく実際に骨の長さが違ったりするようなこともあったりする。たとえば右と左で脚の長さがちがうとかいうのがすぐ思いつく例だ。腕や脚の長さが左右で違うばあい、骨盤に機能的な非対称性がみられるのは大なり小なりほぼ確実といっていい。
上のリストにあてはまるかどうかはっきりしなければ、次のようなテストをしてみるとよい。まず自転車をローラー台 (後輪を固定するやつなんていうんだっけ?) みたいな室内トレーニング機器に固定する。この際、自転車が水平になるように注意。念入りにウォームアップする。上半身裸になって、あまり負荷を大きくせず楽にやること。そうしておいて、だれかを椅子のうえに立たせて後ろから自分を見てもらう。ハンドルのドロップやエアロバーを持ってペダリングして、ダウンストロークのときの体の動きに注意してもらうこと。ダウンストロークのとき、体の片ほうが落ちるような動きをしていないか、もしくは体の片側が前にでるような動きをしていないか。それでわかる。
どうして骨盤が左右非対称に機能するなんてことになるのか?
左右の脚の長さの違い、左右の体のかたさの違い、長いあいだ片ほうをつかうような悪い姿勢のクセなんかがこの原因としていちばん多い。脳みその機能も影響することがある。僕はお客さんの相談をうけていてこのことを偶然発見した。左右の柔軟性はおなじで、自転車にのらなければ機能的にも左右のバランスがとれているのに、なぜか自転車のうえでは左右のバランスが目にみえて悪くなってしまう人たちにときどき出会ったからだ。彼らはべつにサドルにきちんと座れてないとか (訳注3)、片ほうの腰によりかかるように座っている (訳注4) とかいうわけじゃなかった。 (これについては逆のこともいえる。体の固さが左右でちがったり体がねじれていたりする人たちはかなりいる。けれど、そういう人でもいったん自転車のってしまうと、自転車にのっていないときよりずっとうまく左右対称に体が機能していたりするんだ。)
僕の説だとこれは次のようなものだ。現代社会は分析的でよく整理された思考のように左脳をつかう思考に価値をおいている。左脳は体の右側をコントロールしていて自転車にのることは左脳的な活動だ。つまり、多くの人にとって脳みその左側からくる信号は右脳のものよりよりつよく、はっきりしたものになる。僕がこう結論したのは、骨盤の機能が左右でアンバランスな自転車乗りのおよそ 95% が、腰の右側が下がったり前に回転したりする右側にたよる人たちだということにきづいたからだ。これは手脚の右利きとはなんの関係もない。自転車のうえで機能的に骨盤が非対称になってしまう人で左利きの人手でも、ペダリングのときに腰の右側が落ちたり前に回転したりする人の割合はおなじように 95% だってことがわかったからだ。
左側にたよりがちな自転車乗りはめずらしくはないけれど、その数は一般的というにはほどとおい。
ほとんどの人にとって、解決策はストレッチをしたり姿勢をよいバランスにもどす体操をすることだ。それより少ないとはいうものの、ふつうの状態では状況がぜんぜん改善しないし、自転車のうえではさらにひどくなってしまう人たちはまだまだ多い。僕のこの文章はそういう人むけだ。おなじく、体をより柔らかくしたり体幹を鍛えたり姿勢をよくしようと懸命に運動をしている人たちにも。そういう努力をしつつ、でも同時に左右対称に乗れるようになる必要のある人、少なくとも現状よりは乗車姿勢を左右対称に近づけておかなきゃならない人たちもこの文章の対象だ。
解決策
お客さんたちの骨盤が左右対称に機能するよう、これまで僕はいろいろな方法をつかってきた。けれど、うまくいき具合はそのときどきだった。サドルの先端の向きをフレームの中心線からはずしてみたり、サドルの片ほうの後ろにパッドを貼りつけてかさあげしてみたり、サドルの下にあるレールを片ほうがさがるようにまげてみたりもした。他にもたくさんあるけど、それらはいろいろな人たちにさまざまな程度でうまくいった。でも、お客さんがトレーニングの強度を急にあげたり量をふやしたりすると、いつもなんらかの程度でうまくいかなくなるのが常だった。問題なのは、彼らの中にはいつも左右どちらかをつい使ってしまうクセが潜んでいて、コンディションがきつくなるとそれが出てきてしまうってとこだ。
このまえデザインの線で考えていて、ヤグラを横に動かせるシートポストをつくってみた。サドルの先端をまっすぐ前をむかせたまま、サドルをフレームの中心線から横にずらすことができるシートポストだ。こいつをつかうと、体の重心が片ほうによってしまうクセがあっても腰をフレームの中心線に近づけてあげられる。で、より左右のバランスよく機能させたりペダリングしたりできるようになる。でも僕はこれはボツにした。3つのバージョンのシートポストを用意しなくちゃならなくて高くつくから。ひとつめのポストはまったく前後にずれてないもの。ふたつめはシマノやカンパニョーロみたいに標準的なオフセットのやつ(こいつらは横からみるとヤグラのさきっちょがシートポストの中心線にかさなる)。3つめは標準より前後のオフセットが大きいやつ。こんな風に準備するのは自転車とお客さんの組みあわせがどんなふうでも対応できるようにするためだ。こうしておけば、お客さんがきたときに僕がこれだと思うサドルをつかって、前後のオフセットと横のオフセットを試せるっていうアイディアだったわけなんだけどね...
FSA (訳注5) にはやられたよ...まったく。FSAのK-ForceシリーズでヤグラがData Headのポストは、15秒くらいの加工で横に12mmぶん動かせるようになるんだ。これなら、サドルの先端をまっすぐ前をむかせたままサドルを左右にオフセットさせられる。K-Forceシリーズのポストはいわゆる2本締めで、セットバックなし・標準セットバック・セットバック多めのタイプがある。ヤグラは横にたおしたアルミの筒を上下ふたつに割ったかたちだ。で、レールを噛んだ筒を上下から金具ではさみ、さらにこの金具を前後両はじにある2本のネジでしめつけて固定している。上半分の筒の表面にはフレームの中心線からずれないよう、"でっぱり"がふたつつけられている。この"でっぱり"をヤスリで削りおとしてやると(とっても簡単、作業は楽勝。)、ヤグラ自体を左右にうごかせるようになるってわけ。
たくさんの"悩める子羊たち"にこの改造をためしてみた。いちばんうまくいったケースでは、サドルをフレームの中心線からずらしたまま、乗り手をまっすぐ左右バランスよくすることができた。うまくいかなかったケースでも、骨盤を左右対称にしてやるという目標にはずっと近づけることができた。完璧ではないものの、こういう風に工夫すること直接間接になんらかのメリットをつくりだすことができたんだ。
このやり方をつかって適切に乗車姿勢をきめてやれば、パフォーマンス上も乗りやすさの点でも、多くの人がかかえるケガ由来の変なクセにも、なんらかのプラスになるだろう。ポジション調整に関しては、僕にとってこれがパズルの最後のピースになった。
じゃ、君たちの幸運を心からいのってるよ。
訳注 1: positioning、各パーツの位置決め。
訳注 2: 原文は affected side なので、ついつい使ってしまう側ではないかもしれない。たとえば"腰のねじれの影響がでやすい側"とか。はっきりしない。
訳注 3: sit square、進行方向にむかって腰が左右対称になるよう座れていること。記憶ちがいでなければ映画『OVERCOMING』で、かのイェンス・フォイクト兄貴なんかも、マッサーに「あいつはスクェアにすわってないから腰が痛くなるんだよ、まったく。」とか言われてたはず。)
訳注 4: hanging one side。
訳注 5: Full Speed Ahead。バーツメーカーね。