20100911

「さらに膝とペダル軸との位置関係について。+ ペダリング技術 vs ポジション」

ロードレーサーに乗りはじめたとき、困ってしまうのがポジションの問題。ペダルに固定される足の位置や向き、シートの高さや前後の位置、ハンドルの高さ遠さなどなど。文中に出てくる KOPS は "Knee Over the Pedal Spindle" の略称。どの本でも雑誌にもでてくるアレ。

自転車乗りなら知っている cyclingnews.com には 「Fitness questions and answers」 というコーナーがあります。その August 23, 2004 版から抜粋。原文はここ。金がなくて自転車ばかり乗っていた頃、毎回楽しみにしていました。いくつかは自分のために訳したり。下のやつでは読者とスティーブさんのやりとりが印象的です。ふとひっぱりだして掲載。あと、文中の強調は訳者によるものです。

ではみなさん、楽しい自転車生活を!!

スティーブさんはオーストラリアでお店をもってますよ。Cyclefitcentre.com 参照。


膝とペダル軸の位置関係とポジションの問題について。

KOPS とその有効性についての議論を楽しんでいます。

KOPS セッティングは前すぎのように感じて、最近ポジションをいじりはじめました。少し調整するごとに数日乗ってみて、KOPS の理想値より数センチ後ろのポジションで気持ちよくリラックスして乗れるのを発見しました。どこもしびれませんし腕や肩もまったく疲れません。エアロポジションにも支障ありません。膝にもまったく問題ありませんし、手放しテスト (訳注: スティーブさんがポジション決めの際に参考にするテスト) だってパスできます。つまりどんぴしゃってわけです。膝がペダル軸の後ろに来すぎているんじゃないかという心配をのぞけば... 2 センチ以上も後ろなんです。シマノのペダルで固定クリート (訳注: 赤いやつね) を使ってます。

色々いじってみて一つ気づいたのは、お気に入りのサドルのかなり後ろに腰かけるのが好きだということです。というわけで、やり過ぎを心配してます。サドルの後方によい位置を見つけましたが、以前にも座りやすい位置を見つけようとサドルを引いたことがあったのに思いあたりました。よい結果を求めてやり過ぎてしまったのです。

(膝が) ペダル軸のどれくらい後ろだと後ろ過ぎになるのでしょうか?

もっと実際的には、警告ベルが鳴り止むとすればそれはどれくらい後ろの時になるのでしょう。サドルの前後調整についてアドバイスするのは、調整後にサドルの同じ位置に座っているかどうかをなかなか判断できないのでかなり難しいです。なので、もうひとつ別の質問をしておこうと思います。

サドルやその前後についてどうアドバイスしていますか?

乗り手は自然にもっとも快適なサドル位置に落ちついていくのものなのでしょうか。それとも、たとえ見かけは変でも、僕ら乗り手が動いておちついたところが最適な位置なのでしょうか?

Dean Georgaris

Steve Hogg replies:

ポジション調整で、きみが発見したよい点は僕が常々言ってきたことと同じだけれど、はまりやすい所がいくつかあるんだ。

1. ほとんどの人は、上半身にかかる力をある程度取りのぞいてやると、遠いハンドルに手が届きやすくなる。これは数ミリから数センチだろうね。ふつうは同時にハンドル位置も再調整する必要があって、通常は微妙に高くなりステムも変えねばならないかもしれない。

2. ペダル軸からどれくらい後ろに膝があるべきか。これについて確固たる数字はないんだ。僕は数年前に自分の経験を信じるようになってから、この部分を測るのをやめてしまった。これが個人的な値だということしか言えなかったんだ。この値はペダリングしてない時の関係を測っていることに気をつけて。でも実際には僕らはペダリングするわけだ。昔僕がこれを測っていた頃、その幅は 5 ~ 50 ミリで多かったのは 10 ~ 25 ミリ。でもこれは 5 年ちょっと前で、それ以降、僕の考えややりかたは進化し改善されてるってことも覚えておいてね。

3. きみが後ろすぎだとすると、明らかになることがふたつある。シッティングのペダリングからスプリントでのダンシングへの移行がぎこちなくなり、時間がかかるようになること。もう一つは、ハムストリングスのふくらみが厳しい登坂でかなり痛んだり、制限要因になりやすいということだ。

4. きみが書いていることは問題ないみたいなので、心配しなくていい。ただの数字だよ。ひとつ話をしてあげよう。レースの最中、僕にいつもポジションのアドバイスを求めてくる奴がいた。僕はその度「ひどいね、シートチューブが立ちすぎだよ」と言っていた。彼とは数年会わなかった (僕には家族ができていたし) んだが、ある時、Trek OCLV のシートチューブ角が 72 度の一番でかいサイズのフレームを買ったんだって連絡をもらった。すごい。なんて違いだ。彼を見て、やっぱり僕は正しかったと思った。ポジションがよくなったのは自分でもはっきりわかってたけれど、彼はそれでも僕の意見を聞きたかったってわけ。で、TIME のシートポスト (もう売ってない) でさらにサドルを 30mm 引いてあげたら、彼は力を出しやすくてスムーズだって有頂天。今なら、お金を預けてもらって、カスタムフレームを使うところだけれど。シートチューブ角は 69.5 度が効果的だ (彼は普通の人じゃなかった!) って言ったときの "そんなの乗れない!" っていう反応が笑えた。彼は丘陵地帯に住んでいたんで、ポジションの善し悪しはすぐわかるだろう。これで試しに乗ってみてよって言ってさよならした。4 週間以内に、お金を払うか気に入らないからシートポストを返すか電話で話しあうことにしておいた。後の電話で、前よりどれくらいうまく乗れるようになったか、今のシートチューブ角がぴったりなのでフレームを新しく買う気はないことを話してくれた。そう、これはただの数字だ。

5. この話はみんながみんな、サドルをぎりぎり後ろに引けってことじゃない。この経験が僕に何か教えてくれたとすれば、それは、ポジションについてはその人にあわせた答えしかないってこと。そして、包括的なやり方ってのは本質的に無効なんだってことだった。

6. 梃の力が増したように感じるけれど、速く回せなくなるっていうのは後ろすぎだ。正しくやれば、梃の力が増したように感じるのは、強くなったわけじゃなく、広い範囲でクランクに力をかけられるようになったからだ。だから回転もよりスムースになるはず。

きみが言っていることから判断すると、別に心配するようなことはないと思う。そうじゃないって言う時はまた連絡をください。

[Dean then responded:]

特定の人にぴったりのサドルを見つけるのがどんなに難しいかよくわかりました。例えば、先日の新しいポジションだと、ペダルを "踏んで" (訳注: hammering) いなくとも、サドルの前にずれれば好きな時に使う筋肉を変えられます。けれども、これにはサドルが制限要素になってしまうのです。サドルの曲がりがきつすぎて腰をずらし難くなっているのでしょう。

厳しい坂を登ってみて、以前とは違って両脚の前後を均等に使えていることがわかりました。前は大腿四頭筋をより使っていたのとは対照的です。ほとんどの間、ケイデンスは 95 回転なので、大腿四頭筋には問題ありません。腰を引いたポジションにするとたぶんケイデンスが少し減るでしょうけれど、僕の場合は脚の梃の長さが長くなったからですよね?

そのうち、ポジション調整後の数百キロで感じたことを書きこむつもりです。

Steve Hogg replies:

我々が選ぶ機材で、人によって一番異なるのはサドルなんだ。坐骨のまんなかに体重をかけるべきなんだけれど、市場に出まわってるサドルのほとんどは、サドルの先端を 1 ~ 2 度上向きにしないとこれが実現できない。サドルが気になるくらいたわむなら、買い替えの時期だね。軽量サドルは長く使うと断面がハンモックのようになって、いつまでもゆらゆら腰が安定しなくなってしまう。このサドルだけってわけじゃないんだけれど、有名な Selle Italia のフライトシリーズではこの傾向が顕著。僕の場合、お客さんがフライトを使ってるエリートライダーだったら、新品のうちに上にまっすぐなものを乗せて、サドルのへこみ度合を測っておく。ふつうは 3 ~ 4mm だ。うちの店ではこれが 2mm 以上沈んだら取り換えてる。

ふたつめの話は意味がよくわからない。脚の長さやその部分部分の長さが、大人になってから変わるものかどうかわからないし。サドルの後ろに座れば、クランクが描く円のより広い角度で力を加えられるようになる。これは上下の "死点" の影響を教えてくれるものだってこと。上死点付近ではいくぶん早く、下死点付近でもいくらか早く引けるようになる。こうすることで "力が入る" 部分への移行がスムーズになり、力の大きさの変化も少なくなるっていうわけだ。試しに度を越えて後ろに座ってみよう。すると脚の動きを一番うまくコントロールできる位置から外れてしまうのがわかるはず。さらに、きつい坂では重力との関係が変わって、機能的に意味あるシートチューブ角が小さくなる。ペダルを前で引っかいているように感じるのは、脚が下死点に届きにくくなり、力をかけてコントロールするのが難しくなるからだ。

きみが言ってる膝から上の筋肉を "きっかり均等に" 使っている感じは、ぼくらみんなの努力目標にすべきだね。大腿四頭筋のふくらみにぐっと力が入るのをいつも感じるようなら、サドルが前すぎなのはほとんど確実だよ。

ペダリング技術 vs ポジション

[Following on from the above discussion, Dean then asked:]

最後にやっかいな質問を。技術についてはどうでしょう?

オリンピックの水泳選手をみればひとかきひとかきが適切な技術をともなっているのは明らかです。同じ技術は初心者も教えられます。テニスのストロークやゴルフのスイングなど、ほとんどのスポーツでこれは同じでしょう。違いはあるでしょうが、多くは理想的なスイングのように議論されます。

これと同じことがペダルストロークについてなされることがあまりないのは何故なのでしょうか? ランスがペダリングしているのを見て、真似したくなりませんか? 僕は筋力がそれぞれの人で違うのを知っています。でも他のスポーツでは、たとえ初心者レベルでも、適切な技術を探しつづけています。心拍数についてよく耳にするのに、ペダルストロークについてはほとんど耳にしないのは何故なのでしょう? 適切なペダルストローク (があるとして) を実現できれば、驚くような改善が見られるのではないでしょうか。

ポジションについてのあなたの考えは上記のようなことを目標にしているのでしょうか。技術に応じてポジションを調整すべきですか? かわりに技術を完璧に近づけるべきではないでしょうか?

Dean Georgaris

Steve Hogg replies:

すばらしい質問だ。まず、僕は水泳の技術的なことは知らないも同然なんだが、友だちによると "正しい" 技術とされるものの中にも、個人的なスタイルがあるんだそうだ。なんで、きみの例えが適切かどうかははっきりしないということ。まぁしかし、言わんとすることはわかる。自転車界でペダリング技術について言われていることは、水泳のストローク技術で言われていることよりずっと幅広いみたいだ。

例えばフリースタイルで泳ぐにしても、体つきやその機能のしかたで、ひとつの "ポジション" -- 例えばうつ伏せになったときの水面に並行な度合とか -- には人それぞれ違いがあるよね。自転車に乗るにしても体つきやその機能のしかたは人によって違う。自転車の場合だと、この違いは機材選択のちがい、どこをどうポジション調整するかの違い -- サドルやクリート、ハンドルの位置、そしてこれらの相対的な位置関係 -- に直結するわけだ。このことはペダリングスタイルの違いが水泳のストロークの違いより幅広いことを説明してくれる。自転車の乗りがいじくりまわせる機材は水泳選手より多いってことだ。

じゃあテクニックが違うとどんな影響があるんだろうか? 自転車界でメジャーなスタイルは 3 つ。一番多いのはダウンストロークの上半分で踵を落とし、ダウンストロークの下半分のある時点で踵を持ち上げるタイプ。これを山田太郎くんタイプと呼ぼう。で両極端に、つま先下がりタイプと踵落しタイプ。ほとんどの人がどれかなんだけれど、これらのタイプの中でもテクニックには違いがあるってこと、これはお仕着せじゃないってことを誤解しないでほしい。で、他より効率がよいのはどれかっていうのが疑問点なわけだ。

そんなのない。理由は以下。人を (機材やポジション調整抜きに) ある特定のスタイルでペダリングさせようという試みは、レースと同じくらいの強度になった時に失敗するみたい。例えば、心拍数 90% 以上のつらいときなんかがそれ。こんな状況では一回一回のペダリングを考えることなんてできないんで、その人にあった自然なやり方に戻ってしまうってわけだ。そういうわけで、さっき括弧つきで示したように、その人にあったペダリング技術があると僕は思ってる。ペダリング改善したいならたくさん乗ること、そして乗ってないときにも姿勢を矯正しておくこと。自分に自然な動きをなめらかにできるようにするためだ。

ひとつ注意しておきたいのは、プロポーションが同じ人でもペダリングスタイルが違えば、サドルの前後位置や高さも違ってくるということ。極端に踵を落とすスタイルの人は、相応の力でペダリングすればペダリングのたびに自分を後ろに押していることになる。なわけで、そんなに後ろに座らなくても腰が安定する。静止状態で腰を安定させるっていうのは僕がいつも口をすっぱくしていっていることだよね。さらに、このタイプの人はサドルをより低くする必要がある。踵を落とすペダリングでは、サドル高が同じでも踵を落とさない人よりも脚を伸ばさねばならないというのがその理由。他はおんなし。踵を落とす人はつま先下がりの人より足を第二の梃として使う度合も強い。踵を落とすタイプの人を、僕は "小さなストロークでより大きな梃の力を得るタイプ" って呼んでる。

逆に、つま先下がりの人は、足を第二の梃として使う度合があまり大きくなくて、あきらかにサドル高が高くなる。技術のおかげで脚がより遠くに届くからだ。このタイプの人のサドルは、踵を落とすタイプの人にくらべてかなり後ろにくる。つま先下がりテクっていうのは、ペダル上の主なベクトルが後向きになってるってことだからだ。これは同時に体重が前にかかりやすいということでもある。したがって、静止状態で腰を安定させるためにはサドルより多く後ろにひいてやる必要がある。このタイプは "大きなストロークで小さな梃の力" と言ってもいいだろう。

しかーし、僕らの多くはこのふたつの両極端のあいだ、山田太郎くんタイプだ。男は (例外はたくさんあるけど) 踵を落としがちで、女は (これまた例外は多い) つま先でペダリングする傾向がある。

偉大なチャンピオンたちを見てみようか。メルクスは踵を落とすタイプで、イノーは山田太郎くんタイプ、アンクティルはつま先下がりになっている。彼らひとりひとりが史上最高の自転車乗りだ。なかでもアンクティルはたぶん二番手だけど、タイムトライアル選手としては史上最高だろう。三人が三人ともツールドフランスを 5 度優勝し、他のレースでも強かった。僕の記憶では、アンクティルは 14 年間に Grand Prix de Nations で 10 勝はしたと思う。この TT レースを 10 勝もすれば地球最強の自転車乗りの称号にふさわしいと思うでしょ?

きみが機材とポジションに満足なら、メルクスがある少年に尋ねられたときに答えたように、"たくさん乗れ" というのが、僕からみんなへのアドバイスだ。

自転車に乗ってひとつの動作を何百回、何千回、何万回とくり返せば、僕らの姿勢やポジションは鍛えられ、洗練されていくってことだよね。

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