20100317

FT誌: 気あいを入れずに化粧をかさねる日銀

FT.com の「BoJ move to be more cosmetic than radical」 の訳です。原文はこちら

...と訳していたら、「日銀:新型オペを20兆円に拡大-特別支援オペ終了に対応(Update2)」 from Bloomberg.co.jp (更新日時: 2010/03/17 13:25 JST) だそうで。

P.S. さっきトイレに行ったらヤモリ (小) がいました。この 10 数年ずっといるんですが、ちゃんと世代交代しているようです。5cm くらいのかわいいやつでしたよ。僕らの世代交代は、いったいどうなるんでしょうか orz...

2010/03/19 追記: "政府~電気会社" のあたりを訂正。東京電力の元副社長が日銀の審議委員になるようで。『過去のドラめもん』 を読んでいて判明。この場を借りて、ドラめもんさんに御礼おば。


2010年3月15日23時11分

気あいを入れずに化粧をかさねる日銀

ロビン・ハーディング、東京発

日本銀行は今週の政策決定会合でトリッキーな決定をおこなった。しかし、その内容は金融政策ではなく、おもに景気見通しの調整についてのものだった。

ウォッチャーの多くは日銀が金融政策をわずかにゆるめるだろうとみている。日銀の考えは、経済が弱りきってしまったわけでもないのに、デフレ対策として自分たちにできることは少ないというものだが、とにかくウォッチャーたちはそう予想している。

ところが、変化を求める声に耳をかたむけると、むしろ政治家の怒りをなだめ (soothe)、市場をしずめ (placate)、消費者を「ゆくゆくは自分たちがデフレを打破しますよ」と説きふせる (persuade) ために、日本銀行が物価の下落を心配しているようにきこえてくる。

東京にいる JPMorgan のエコノミスト、カンノ・マサアキは、「日銀から追加発表する可能性のほうが大きいでしょう、どちらかといえば。」と思っている。

ゴールドマン・サックスのエコノミストも、限定的な緩和が"ありそうだ"と判断している。最近では、政府からも"もっと気あいを入れろ"との圧力が微妙に高まってきた。ノダ・ヨシヒコ財務副大臣は"適切かつ柔軟な政策"を期待していると述べ、日銀は"危機感"を持つよう求めてもいる。

日銀の審議委員政府には電力電気会社の重役もいる。彼なら日銀の政策決定会合による緩和を支持するだろうし、その気持ちはエコノミストより強そうなものだ。

このような状況だが、日本銀行は自分たちがデフレと闘うとは絶対に思われたくないようだ。これでは市場はがっかり、消費者もデフレが続くと思って自分の影におびえるようになりかねない。そうなれば日銀はもっと政治圧力を受けやすくなるだろう[1]。

いっぽうで、日銀の政策決定会合には、日本経済の何が変わってしまったのか、そしてなぜもっと緩和したほうがよいのかを理解していない委員もいる。3月初めのロイター報道によると、「今のところ、1月の私の予想とくらべ、物価下落ペースに何か大きな変化があったようには見えない」、政策委員のノダ・タダオはそう述べたとある[2]。

3月15日月曜日の発表では、日本政府でさえ景気は「わずかだが次第に上むいてきている」としている[3]。実際には 1月末の物価は 1年間で 1.3% も下落しているのに。政府がこんな認識なので、日本銀行が政策を変えたとしても、物価の回復不足を指摘されてしまうかもしれないとはいえる。

日銀は国債を買って通貨を生みだすような積極策には反対で、政策はこけおどしなものになりそうだ。昨年 12月にはじめた 3ヶ月間で 10兆円 (1000億ドル、810億ユーロ、730億ポンド)、金利 0.1% の資金供給[4] を拡大するのが、彼らにとっては当然の選択であろう。しかし、無担保コールレート(オーバーナイト物) を 0.1% からさらにゼロに引きさげるなど、他にも選択肢はある[5]。

日本銀行は 3ヶ月間の資金供給を 20兆円にまで増やしてもよいし、その返済期日を 3ヶ月から 6ヶ月にのばしてもよい[6]。中期金利とオーバー・ナイト金利を押しさげるのが目的である。これらの金利をさげ、安く借り入れができるようにして経済を刺激するのだ。

しかしこのような政策には限界もある。3ヶ月や 6ヶ月の日本国債の金利 (利回り) はすでに 0.12 ~ 0.13% の低さになっているからだ[7]。

それに、これらの国債の金利を 0.1% にまでさげたとしても、その差はわずかだ。銀行からの融資がほしいという需要もまだ少ない。さらには、たとえ銀行が低い金利で安く資金調達できても、それを貸し出せる先がない可能性もある。

このような政策が機能するのは、日銀が無担保コールレートを「より長いあいだ、かつより低く」してくれるはず、と市場が信じているあいだだ。もし市場がそう信じてくれれば、イールド・カーブ (利回り曲線) 全体を引きさげることができるはずである。

欧米の金利が上がりはじめても、日本の金利が低いままなら円安になる。そうなれば輸出は有利になって、日本が輸出主導で回復する、より大きな起爆剤となってくれるだろう。

訳注 1: 日銀さん墓穴を掘ってるんじゃないの? というロビンさんの老婆心ですかね。

訳注 2: 野田氏のセリフの部分の原文は、"I can't observe any moves now that would show much change in the pace of price falls from my forecast in January"。ロイターの記事には、"野田委員は、個人的見方として「1月に私が想定した物価下落幅について、ここにきて、大きいとか、小さいとかはっきり言うほどの動きは観察できていない」としたうえで「1月、2月の決定会合での政策運営方針を、現時点で何か変えなくてはいけないということは一切ない」と述べた。"とある。FTのこの記事は、ロイターの記事をふくらませただけな感じ。ロイターの記事でも文中に出てるターム物についてもふれているし。

訳注 3: 『内閣府月例経済報告、平成22年3月』 (PDF直リンク) より引用すると、「景気は、 着実に持ち直してきているが、 なお自律性は弱く、失業率が高水準にあるなど厳しい状況にある。」平成22年3月15日発表。←ふーん... そしてそれに対する日経の記事はこちらから (Google の検索結果) → 『「景気、着実に持ち直し」 月例経済報告、8カ月ぶり上方修正』

訳注 4: 日銀より、12月2日付 『総裁記者会見要旨』 (PDF直リンク)

訳注 5: 無担保コ-ルレートは日本銀行の政策金利。参考: 「無担保コールオーバーナイト物」 by 野村證券など。ググってね。

訳注 6: 参考: 「コール市場」 by 『よくわかる! 金融用語辞典』。『金利の変動要因』 (PDF直リンク、拾っただけでまだ読んでない...)

訳注 7: risk-free rate = 国債の金利とした。たぶん、ここの「割引短期国債」の金利 (利回り) のこと。「日本の金利について調べる」 by 国会図書館 ← 勉強になりました...

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インフレ目標2%を断行せよ