20100919

「あほー、需要なんだってば。」 by Paul Krugman from NT

現場に出ていて読めなかった RSS をさかのぼる途中、himaginary さんの記事「中小企業にとって何が問題か?」にいきあたりました。彼の記事にあったポールくんのブログを読むために翻訳。原文は「It's Demand, Stupid」。つか 『himaginary の日記』 読んでね。そのほうが広がりがでるので。

脈絡ないけど、2000年代初頭、僕がインドネシアで "開発協力って何じゃらほい" のまま挫折し、そのあと日本の田舎に引きこもっていた頃、田舎で "いちご掲示板" のみなさんや田中さん、山形さんに励まされ、なんとかここまで生きてきました。そういうのを思いだしました。訳しててだんだん頭に来たのが正直なところ。

では、毎日楽しくくらしましょう。 Goooood Day!!


September 15, 2010, 3:36 pm

あほー、需要なんだってば。

これ前にも言ったよね。キャサリン・ランペルがつくったとてもよい図があって、要点がわかりやすい。 もし君が (ロビイストではなく...) ビジネスを云々したいなら、政府による介入とか、政治がこの先どうなるかなんてことをいつものように探ってもなんのヒントも得られない。ビジネスっていうのは売れなきゃ人を雇わないんだって。以上、ピリオド。終わり。

(キャプション: 中小企業が "もっとも重要な要素だと思っていること↓ (訳注: from What’s Holding Back Small Businesses? by CATHERINE RAMPELL) " ナイスな図!!

で、ビジネスのために政府ができて、一番よくて、彼らにできそうなこと。それはもっと政府がお金を出すこと、そして世の中の需要を増やしてやることだ。 (訳注: アメリカでは...かな) 現実的にはそんなことはおきない感じだけど、僕がここで言ったことが単純な (訳注: 学問上の) 真実なのは動かせないわな。

20100911

「さらに膝とペダル軸との位置関係について。+ ペダリング技術 vs ポジション」

ロードレーサーに乗りはじめたとき、困ってしまうのがポジションの問題。ペダルに固定される足の位置や向き、シートの高さや前後の位置、ハンドルの高さ遠さなどなど。文中に出てくる KOPS は "Knee Over the Pedal Spindle" の略称。どの本でも雑誌にもでてくるアレ。

自転車乗りなら知っている cyclingnews.com には 「Fitness questions and answers」 というコーナーがあります。その August 23, 2004 版から抜粋。原文はここ。金がなくて自転車ばかり乗っていた頃、毎回楽しみにしていました。いくつかは自分のために訳したり。下のやつでは読者とスティーブさんのやりとりが印象的です。ふとひっぱりだして掲載。あと、文中の強調は訳者によるものです。

ではみなさん、楽しい自転車生活を!!

スティーブさんはオーストラリアでお店をもってますよ。Cyclefitcentre.com 参照。


膝とペダル軸の位置関係とポジションの問題について。

KOPS とその有効性についての議論を楽しんでいます。

KOPS セッティングは前すぎのように感じて、最近ポジションをいじりはじめました。少し調整するごとに数日乗ってみて、KOPS の理想値より数センチ後ろのポジションで気持ちよくリラックスして乗れるのを発見しました。どこもしびれませんし腕や肩もまったく疲れません。エアロポジションにも支障ありません。膝にもまったく問題ありませんし、手放しテスト (訳注: スティーブさんがポジション決めの際に参考にするテスト) だってパスできます。つまりどんぴしゃってわけです。膝がペダル軸の後ろに来すぎているんじゃないかという心配をのぞけば... 2 センチ以上も後ろなんです。シマノのペダルで固定クリート (訳注: 赤いやつね) を使ってます。

色々いじってみて一つ気づいたのは、お気に入りのサドルのかなり後ろに腰かけるのが好きだということです。というわけで、やり過ぎを心配してます。サドルの後方によい位置を見つけましたが、以前にも座りやすい位置を見つけようとサドルを引いたことがあったのに思いあたりました。よい結果を求めてやり過ぎてしまったのです。

(膝が) ペダル軸のどれくらい後ろだと後ろ過ぎになるのでしょうか?

もっと実際的には、警告ベルが鳴り止むとすればそれはどれくらい後ろの時になるのでしょう。サドルの前後調整についてアドバイスするのは、調整後にサドルの同じ位置に座っているかどうかをなかなか判断できないのでかなり難しいです。なので、もうひとつ別の質問をしておこうと思います。

サドルやその前後についてどうアドバイスしていますか?

乗り手は自然にもっとも快適なサドル位置に落ちついていくのものなのでしょうか。それとも、たとえ見かけは変でも、僕ら乗り手が動いておちついたところが最適な位置なのでしょうか?

Dean Georgaris

Steve Hogg replies:

ポジション調整で、きみが発見したよい点は僕が常々言ってきたことと同じだけれど、はまりやすい所がいくつかあるんだ。

1. ほとんどの人は、上半身にかかる力をある程度取りのぞいてやると、遠いハンドルに手が届きやすくなる。これは数ミリから数センチだろうね。ふつうは同時にハンドル位置も再調整する必要があって、通常は微妙に高くなりステムも変えねばならないかもしれない。

2. ペダル軸からどれくらい後ろに膝があるべきか。これについて確固たる数字はないんだ。僕は数年前に自分の経験を信じるようになってから、この部分を測るのをやめてしまった。これが個人的な値だということしか言えなかったんだ。この値はペダリングしてない時の関係を測っていることに気をつけて。でも実際には僕らはペダリングするわけだ。昔僕がこれを測っていた頃、その幅は 5 ~ 50 ミリで多かったのは 10 ~ 25 ミリ。でもこれは 5 年ちょっと前で、それ以降、僕の考えややりかたは進化し改善されてるってことも覚えておいてね。

3. きみが後ろすぎだとすると、明らかになることがふたつある。シッティングのペダリングからスプリントでのダンシングへの移行がぎこちなくなり、時間がかかるようになること。もう一つは、ハムストリングスのふくらみが厳しい登坂でかなり痛んだり、制限要因になりやすいということだ。

4. きみが書いていることは問題ないみたいなので、心配しなくていい。ただの数字だよ。ひとつ話をしてあげよう。レースの最中、僕にいつもポジションのアドバイスを求めてくる奴がいた。僕はその度「ひどいね、シートチューブが立ちすぎだよ」と言っていた。彼とは数年会わなかった (僕には家族ができていたし) んだが、ある時、Trek OCLV のシートチューブ角が 72 度の一番でかいサイズのフレームを買ったんだって連絡をもらった。すごい。なんて違いだ。彼を見て、やっぱり僕は正しかったと思った。ポジションがよくなったのは自分でもはっきりわかってたけれど、彼はそれでも僕の意見を聞きたかったってわけ。で、TIME のシートポスト (もう売ってない) でさらにサドルを 30mm 引いてあげたら、彼は力を出しやすくてスムーズだって有頂天。今なら、お金を預けてもらって、カスタムフレームを使うところだけれど。シートチューブ角は 69.5 度が効果的だ (彼は普通の人じゃなかった!) って言ったときの "そんなの乗れない!" っていう反応が笑えた。彼は丘陵地帯に住んでいたんで、ポジションの善し悪しはすぐわかるだろう。これで試しに乗ってみてよって言ってさよならした。4 週間以内に、お金を払うか気に入らないからシートポストを返すか電話で話しあうことにしておいた。後の電話で、前よりどれくらいうまく乗れるようになったか、今のシートチューブ角がぴったりなのでフレームを新しく買う気はないことを話してくれた。そう、これはただの数字だ。

5. この話はみんながみんな、サドルをぎりぎり後ろに引けってことじゃない。この経験が僕に何か教えてくれたとすれば、それは、ポジションについてはその人にあわせた答えしかないってこと。そして、包括的なやり方ってのは本質的に無効なんだってことだった。

6. 梃の力が増したように感じるけれど、速く回せなくなるっていうのは後ろすぎだ。正しくやれば、梃の力が増したように感じるのは、強くなったわけじゃなく、広い範囲でクランクに力をかけられるようになったからだ。だから回転もよりスムースになるはず。

きみが言っていることから判断すると、別に心配するようなことはないと思う。そうじゃないって言う時はまた連絡をください。

[Dean then responded:]

特定の人にぴったりのサドルを見つけるのがどんなに難しいかよくわかりました。例えば、先日の新しいポジションだと、ペダルを "踏んで" (訳注: hammering) いなくとも、サドルの前にずれれば好きな時に使う筋肉を変えられます。けれども、これにはサドルが制限要素になってしまうのです。サドルの曲がりがきつすぎて腰をずらし難くなっているのでしょう。

厳しい坂を登ってみて、以前とは違って両脚の前後を均等に使えていることがわかりました。前は大腿四頭筋をより使っていたのとは対照的です。ほとんどの間、ケイデンスは 95 回転なので、大腿四頭筋には問題ありません。腰を引いたポジションにするとたぶんケイデンスが少し減るでしょうけれど、僕の場合は脚の梃の長さが長くなったからですよね?

そのうち、ポジション調整後の数百キロで感じたことを書きこむつもりです。

Steve Hogg replies:

我々が選ぶ機材で、人によって一番異なるのはサドルなんだ。坐骨のまんなかに体重をかけるべきなんだけれど、市場に出まわってるサドルのほとんどは、サドルの先端を 1 ~ 2 度上向きにしないとこれが実現できない。サドルが気になるくらいたわむなら、買い替えの時期だね。軽量サドルは長く使うと断面がハンモックのようになって、いつまでもゆらゆら腰が安定しなくなってしまう。このサドルだけってわけじゃないんだけれど、有名な Selle Italia のフライトシリーズではこの傾向が顕著。僕の場合、お客さんがフライトを使ってるエリートライダーだったら、新品のうちに上にまっすぐなものを乗せて、サドルのへこみ度合を測っておく。ふつうは 3 ~ 4mm だ。うちの店ではこれが 2mm 以上沈んだら取り換えてる。

ふたつめの話は意味がよくわからない。脚の長さやその部分部分の長さが、大人になってから変わるものかどうかわからないし。サドルの後ろに座れば、クランクが描く円のより広い角度で力を加えられるようになる。これは上下の "死点" の影響を教えてくれるものだってこと。上死点付近ではいくぶん早く、下死点付近でもいくらか早く引けるようになる。こうすることで "力が入る" 部分への移行がスムーズになり、力の大きさの変化も少なくなるっていうわけだ。試しに度を越えて後ろに座ってみよう。すると脚の動きを一番うまくコントロールできる位置から外れてしまうのがわかるはず。さらに、きつい坂では重力との関係が変わって、機能的に意味あるシートチューブ角が小さくなる。ペダルを前で引っかいているように感じるのは、脚が下死点に届きにくくなり、力をかけてコントロールするのが難しくなるからだ。

きみが言ってる膝から上の筋肉を "きっかり均等に" 使っている感じは、ぼくらみんなの努力目標にすべきだね。大腿四頭筋のふくらみにぐっと力が入るのをいつも感じるようなら、サドルが前すぎなのはほとんど確実だよ。

ペダリング技術 vs ポジション

[Following on from the above discussion, Dean then asked:]

最後にやっかいな質問を。技術についてはどうでしょう?

オリンピックの水泳選手をみればひとかきひとかきが適切な技術をともなっているのは明らかです。同じ技術は初心者も教えられます。テニスのストロークやゴルフのスイングなど、ほとんどのスポーツでこれは同じでしょう。違いはあるでしょうが、多くは理想的なスイングのように議論されます。

これと同じことがペダルストロークについてなされることがあまりないのは何故なのでしょうか? ランスがペダリングしているのを見て、真似したくなりませんか? 僕は筋力がそれぞれの人で違うのを知っています。でも他のスポーツでは、たとえ初心者レベルでも、適切な技術を探しつづけています。心拍数についてよく耳にするのに、ペダルストロークについてはほとんど耳にしないのは何故なのでしょう? 適切なペダルストローク (があるとして) を実現できれば、驚くような改善が見られるのではないでしょうか。

ポジションについてのあなたの考えは上記のようなことを目標にしているのでしょうか。技術に応じてポジションを調整すべきですか? かわりに技術を完璧に近づけるべきではないでしょうか?

Dean Georgaris

Steve Hogg replies:

すばらしい質問だ。まず、僕は水泳の技術的なことは知らないも同然なんだが、友だちによると "正しい" 技術とされるものの中にも、個人的なスタイルがあるんだそうだ。なんで、きみの例えが適切かどうかははっきりしないということ。まぁしかし、言わんとすることはわかる。自転車界でペダリング技術について言われていることは、水泳のストローク技術で言われていることよりずっと幅広いみたいだ。

例えばフリースタイルで泳ぐにしても、体つきやその機能のしかたで、ひとつの "ポジション" -- 例えばうつ伏せになったときの水面に並行な度合とか -- には人それぞれ違いがあるよね。自転車に乗るにしても体つきやその機能のしかたは人によって違う。自転車の場合だと、この違いは機材選択のちがい、どこをどうポジション調整するかの違い -- サドルやクリート、ハンドルの位置、そしてこれらの相対的な位置関係 -- に直結するわけだ。このことはペダリングスタイルの違いが水泳のストロークの違いより幅広いことを説明してくれる。自転車の乗りがいじくりまわせる機材は水泳選手より多いってことだ。

じゃあテクニックが違うとどんな影響があるんだろうか? 自転車界でメジャーなスタイルは 3 つ。一番多いのはダウンストロークの上半分で踵を落とし、ダウンストロークの下半分のある時点で踵を持ち上げるタイプ。これを山田太郎くんタイプと呼ぼう。で両極端に、つま先下がりタイプと踵落しタイプ。ほとんどの人がどれかなんだけれど、これらのタイプの中でもテクニックには違いがあるってこと、これはお仕着せじゃないってことを誤解しないでほしい。で、他より効率がよいのはどれかっていうのが疑問点なわけだ。

そんなのない。理由は以下。人を (機材やポジション調整抜きに) ある特定のスタイルでペダリングさせようという試みは、レースと同じくらいの強度になった時に失敗するみたい。例えば、心拍数 90% 以上のつらいときなんかがそれ。こんな状況では一回一回のペダリングを考えることなんてできないんで、その人にあった自然なやり方に戻ってしまうってわけだ。そういうわけで、さっき括弧つきで示したように、その人にあったペダリング技術があると僕は思ってる。ペダリング改善したいならたくさん乗ること、そして乗ってないときにも姿勢を矯正しておくこと。自分に自然な動きをなめらかにできるようにするためだ。

ひとつ注意しておきたいのは、プロポーションが同じ人でもペダリングスタイルが違えば、サドルの前後位置や高さも違ってくるということ。極端に踵を落とすスタイルの人は、相応の力でペダリングすればペダリングのたびに自分を後ろに押していることになる。なわけで、そんなに後ろに座らなくても腰が安定する。静止状態で腰を安定させるっていうのは僕がいつも口をすっぱくしていっていることだよね。さらに、このタイプの人はサドルをより低くする必要がある。踵を落とすペダリングでは、サドル高が同じでも踵を落とさない人よりも脚を伸ばさねばならないというのがその理由。他はおんなし。踵を落とす人はつま先下がりの人より足を第二の梃として使う度合も強い。踵を落とすタイプの人を、僕は "小さなストロークでより大きな梃の力を得るタイプ" って呼んでる。

逆に、つま先下がりの人は、足を第二の梃として使う度合があまり大きくなくて、あきらかにサドル高が高くなる。技術のおかげで脚がより遠くに届くからだ。このタイプの人のサドルは、踵を落とすタイプの人にくらべてかなり後ろにくる。つま先下がりテクっていうのは、ペダル上の主なベクトルが後向きになってるってことだからだ。これは同時に体重が前にかかりやすいということでもある。したがって、静止状態で腰を安定させるためにはサドルより多く後ろにひいてやる必要がある。このタイプは "大きなストロークで小さな梃の力" と言ってもいいだろう。

しかーし、僕らの多くはこのふたつの両極端のあいだ、山田太郎くんタイプだ。男は (例外はたくさんあるけど) 踵を落としがちで、女は (これまた例外は多い) つま先でペダリングする傾向がある。

偉大なチャンピオンたちを見てみようか。メルクスは踵を落とすタイプで、イノーは山田太郎くんタイプ、アンクティルはつま先下がりになっている。彼らひとりひとりが史上最高の自転車乗りだ。なかでもアンクティルはたぶん二番手だけど、タイムトライアル選手としては史上最高だろう。三人が三人ともツールドフランスを 5 度優勝し、他のレースでも強かった。僕の記憶では、アンクティルは 14 年間に Grand Prix de Nations で 10 勝はしたと思う。この TT レースを 10 勝もすれば地球最強の自転車乗りの称号にふさわしいと思うでしょ?

きみが機材とポジションに満足なら、メルクスがある少年に尋ねられたときに答えたように、"たくさん乗れ" というのが、僕からみんなへのアドバイスだ。

自転車に乗ってひとつの動作を何百回、何千回、何万回とくり返せば、僕らの姿勢やポジションは鍛えられ、洗練されていくってことだよね。

20100905

セントルイス連銀の記事から: 「インフレ予想について -Expected Inflation Near and Far」

えーっと、『道草』でポールくんのディスインフレネタに出てきた "TIPS (Tresury Inflation-Protected Tresury Securities) " の参考にするために訳していたもの。原文は『Monetary Trends, Feb 2007. by Federal Reserve Bank of ST. Louis.』 (PDF直リンク)。アメリカのセントルイス連銀の記事ですね。


インフレ予想について -Expected Inflation Near and Far

原油価格や非金融的現象の変動は、インフレーションの短期的な見とおしによるものとみなされることが多い。経済学者の多くがこの考えを受けいれているものの、長い期間ではインフレーションは金融政策で決まる。したがって、長い目でみた時のインフレ予想というものは、おもに金融政策当局が目標とするインフレを国民がどう考えるかを反映するものだということだ。言いかえると、金融政策当局があるインフレ目標にコミットしているとみなされれば、原油価格やその他の非金融的現象は国民の見方にはあまり影響がないのである。

予想インフレ率を測定する際、研究者やアナリストはふつう調査や市況をみる。例えば、通常の財務省証券やインフレの影響を受けないよう調整された財務省証券 (TIPS) の同じ満期のものを選んで、そのイールドを比べるのだ。TIPS より通常の財務省証券のイールドが上昇していれば、市場の人々がその証券の満期までにインフレ率が上がると思っていることがわかる。[原注1]



図は 5 年満期の TIPS のスプレッドの月毎の値を 2004 年 1月から 2006 年 11月にわたってプロットしたものだ。2004 年と 2005 年のスプレッドの変動は大きく、不安定な原油価格とカトリーナとリタというふたつのハリケーン後の経済的見とおしの不確実さがあらわれている。それ以降のスプレッドの変化もエネルギー価格の変動と連動している。例えば、2006 年後半にスプレッドの値が急落しているのは、74 ドル/バレルだった 7月の原油価格が 10 月には 60 ドル/バレル以下まで大幅に値を下げたのと同期しているのである。

5 年満期の TIPS のスプレッドの値のような短期の予想インフレ率のものさしはエネルギー価格と緊密に連動しているが、より長期の予想インフレ率のものさしはエネルギー価格の変動の影響はあまり受けない。例をあげると、5-year forward TIPS のスプレッド (5年先以降の5年間の予想インフレ率を反映する) をみると、その値は原油価格より今から 5 年先までをカバーする TIPS のスプレッドに連動している。[原注: 2] 図には 5-year forward TIPS のスプレッドも示してあるが、その値は 2004 年以降 2.25 と 2.75 の間で、原油価格が下がった 2006 年後半でもそこそこ値を下げただけだ。フィラデルフィア連銀が発表する 「Survey of Professional Forcasters」 のように長期間の調査では、予想インフレ率はさらにずっと安定した値をしめしてきた。「Survey of Professional Forcasters」 による 10 年平均の CPI インフレ率の見とおしの中央値は 1999年以降、2.5% から上下 0.10% の幅におさまっているのだ。[原注: 3]

長期にわたる予想インフレ率のほうがより安定しているのは、市場の人々が原油価格の変動の影響は一過的なものだと考えているのをしめしている。国民が連邦準備銀行はインフレ率の低維持にコミットしているとということをしっかり信じつづけていたのがはっきりわかる。万が一、長期間の予想インフレ率が急上昇するようなことがあっても、それは原油価格を反映したものではなく、連邦準備銀行がインフレをチェックして抑制するというコミットメントの信頼性が問題になっているのである。

- David C. Wheelock

[1] An increase could also refrect an increase in inflation-risk premiums. For a discussion od the use of the TIPS yield spread as a measure of expected inflation, see Kevin L. Kliesen and Frank A. Schmid, "Monetary Policy Actions, Macroeconomic Data Releases, and Inflation Expectations," Federal Releases Bank of St. Louis Review, May/June 2004, 86(3), pp. 9-21.

[2] The 5-year forward TIPS spread is obtained by dividing the total inflation expected over the entire 10 years [(1 + 10 -Yr TIPS Spread)5] and then taking this ratio's 5th root (equivalent to raising it to the 0.2 power) to get the average annual rate.

[3] See www.philadelphiafed.org/econ/spf/index.html

まいど前置きが長くなりがちな tmpsoulcage です、こんにちは。イングランド銀行 (BoE) の金融政策委員会 (MPC) のポーゼンさんが 『The Economist』 に寄稿したものを翻訳しました。原文を紹介してくれた hicksian さんに感謝を。

MPC の人たちはけっこう頻繁に講演します。先日の Jackson Hole でも副総裁、チャールズ・ビーンさんが 「Monetary Policy after the Fall」 という題で講演していました。まぁ、65 頁もあるんですが、"まとめ" になっている部分もあるので興味のある方はどうぞ。

個人的なことだけれど、僕のささやかな労力と能力を『道草』をつくってくれた彼に捧げたい。


2010年6月1日の質問:
「世界経済にとってより脅威なのは、インフレとデフレのどちらですか? また、政治家や官僚は構造改革と総需要対策、どちらに力を注ぐべきでしょうか?」
への回答。

アダム・ポーゼン (寄稿者、2010年6月2日 16:54)

大部分のマクロ経済学者はデフレが悪だとかたく信じています。われわれマクロ経済学者は、どうしてそう考えるべきか、理由のリストを作ることもできますよ。1930 年代のデフレーションの不気味な影はとても根づよく残っていますね。それは次の両方のことからきています。ひとつは、1930 年代のデフレが実際の暮らしむきをひどく悪化させたということ。もうひとつは、1930 年代以降、じわじわと悪化するようなデフレというものを私たちがほとんど経験していないということです。このようなデフレの一番最近の事例は日本のデフレなんですが、状況は困惑してしまうようなものになっています。

日本でおきているデフレーションは、上のように私たちが怖がるほど破壊的ではないのかもしれません。とはいえ、かなり長続きしていますし、同時にずいぶん理解の難しい現象なのです。粘着性なのが日本のデフレでして、それは "10年間もいすわって、もっとひどくなるかと思えばそうでもなく、マイナス 1% で安定して" しまいました。それだけでなく、そのペースが速くなったり遅くなったりしましたし、目に見えるどころではない悪影響さえあったんです。標準的なマクロ経済モデルのどれを使っても、こんなデフレは簡単にはつくれないでしょう。それくらい理解するのが難しいということです。

日本では、インフレーションの指標がどれも 1995 年あたりでマイナスになりました。その後も 1999 年にほんの短期間もちなおしはしたものの、少なくとも 2004 年まではマイナスのまんまです。2001 年から 2006 年には、日本銀行がお手製の "量的緩和政策" を実施していました。しかし名目値的にはほぼ効果がなかったように見えます。そうです、2000 年代初期の GDP ギャップがまだ吸収しきれていなかったんですね。ですけれど、その当のギャップがどれくらいなのか、それをまっとうに評価するのが難しい。私自身、日本の潜在成長率を見積もってやってみました。でも、経済回復期にもデフレが続くような状況で、GDP ギャップがどれくらいあるのかを評価するのは難しかったです。仮にそのギャップが物価の下落圧力を受けとめてしまうくらい大きかったなら、どうして 1990 年代にデフレはひどくなっていかなかったんでしょう? 実際には年率でほぼマイナス 1% のままだったので、うまく説明がつかないのです。

デフレのコストについてももっと研究が必要です。私たちが日本のデフレを不気味に思ったのにはちゃんとした理由があると思います。でも、日本ではそのコストが私たちの予想より小さい感じがしますよね。デフレが経済成長の足をひっぱるのは間違いないし、いくら金利が低いといっても、政府が返さねばならない借金の利子分だってだんだん問題になります。日本の株安がつづいたのがデフレのせいなのは確かだし、そのせいで貯蓄に頼る人たちも消費しなくなりました。それでも日本は 2002 年から 2008 年にしっかりした回復をみせ、デフレの勢いはそれを妨げるほどひどくなかったんです。

供給されたマネーが莫大だった [訳注1] のに、それにインパクトがなかったようなのも難問です。現代の経済研究者のおおまかな見解だと、量的緩和政策は国民に対する中央銀行のコミットメントをつうじてインフレや金融政策への予想にはたらきかけるもので、資産やその他の物価をじかに変えるということはまずありません。つまり、日本銀行のデフレ対策で大事だったのは、「インフレ率がプラスで推移するという確かな見とおしが得られるまで、日銀は低金利をつづける」という 2002 年の発表なんですね。けれども、こうした現象を間接的にではなく、はっきり説得力あるものとしてとらえるのは案外むずかしい [訳注2]。そうしたことを私たちはみな心にとめておかねばなりません。近ごろほかの国々の中央銀行によって実施されている非伝統的な (金融) 政策についても同じことが言えるのですから。

2000 年代、日本の実質経済にはよかった頃もありました。そこには、他の主要市場ではなく、2003 年の 金融制度改革のおかげも幾らかはあったでしょう。その影響は広義のマネー [訳注3] の増加にあらわれてしかるべきだったのですけれど、そうなっていないのが現状です。

そういうわけで、デフレがはじまったときに金融政策で何ができるか、私たちはもっと謙虚に考えねばなりません。とくに、金利がゼロあたりまで低くなり、従来とは違った政策 [訳注4] をとる時にはそうでしょう。日本は金融政策をつかって手っとりばやくデフレから逃れることができませんでした。かの国の物価 (今のイギリスでも実はそうなんですが) の動きは、実施された債券買いとりの規模からすると、マネタリストを信奉する人たちの多くが予想したであろう動きとはかなり違っていました。日本をみていると、金融引き締めの不安を払拭するために量的緩和をつかうのはまったく正しいことだったのがわかります。でも、量的緩和政策の結果どうなるかは予測できるものではありません。短期間でデフレを克服できるような大きい成果がえられるかどうかさえわからないんです。

訳注1: 原文は "huge monetary creation"。

訳注2: 原文は "it is rather difficult to discern this effect in any convincing rather than suggestive manner." となっています。

訳注3: "broad money"。 取引や決済に使われる通貨と貨幣だけでなく、財産としてのものも含まれる。

訳注4: 原文は "unconventional measures"。

20100417

FT誌: 日本の議員たちがインフレーションターゲットを求めている。

かえるくんごめん...浮気してしまいました。

しかし、日銀が何をしているかを追っていて、「高校生レベル」でわかりやすく解説してくれる人たちがほしいです。もしこの罠が長期で離れないなら、そして10年先を見すえるなら、必要だと思います。彼らのためにも。

コメントと助言をいただいた night_in_tunisia さんに感謝。

原文は FT誌の 「Japanese MP group to seek inflation target」。


13 Apr 2010 12:00am

日本の議員たちがインフレーションターゲットを求めている。[1]

By Mure Dickie in Tokyo

与党、民主党に属する 130 人ほどの国会議員が、日本銀行に対してイギリス式の明確なインフレーション・ターゲットを課す要求案の準備をすすめている。

これは、最近になって民主党議員が結成した "デフレ脱却議員連盟"[2] によるものだ。日本経済は物価の下落に苦しんでいるが、それに対する中央銀行の腰は重い。この動きによって、与党にひろまっている不満が浮き彫りになったといえよう。

日本のメディアが伝えるところによると、彼らは火曜日の会見[3] で、インフレーション・ターゲットの実施を正式なものとして政策案に取りいれるよう訴えたとのことである。7月に予定されている参議院選挙は民主党にとって非常に重要なものとなりそうなので、デフレ脱却議員連盟は、そのマニフェストにインフレーション・ターゲットを盛りこみたいのだ。

この民主党議員グループの動きによって、日本銀行が新しい緩和政策の実施を強いられると市場は考えるようにはなるだろう。日銀は自らのデフレーションに対する姿勢を、それに疑いを抱いている人たちに納得してもらわなければならないからだ。とはいうものの、中央銀行には公式には独立性というものがある。民主党幹部が、日銀にインフレーション・ターゲットを採用させることにどれくらい意欲的になれるかはまだまだ未知数だ。

民主党の菅直人財務大臣兼副総理は、物価下落問題によりしっかり取りくむよう、日本銀行に公の場で促したことがある。 しかし、彼も中央銀行に対して明確なインフレーション・ターゲットを採用させるという考えを支持するまでには至っていない。実際はといえば、近ごろの彼の日銀に対する態度は軟化している。[4]

日銀の物価安定に対するアプローチは以前に比べれば柔軟になったものの、菅大臣の相手、白川方明日銀総裁は現状を堅持しようと頑なでありつづけている。彼は "現在の金融危機 によって、物価変動にあまりに注目しすぎ、他の経済的要素を無視してしまうことのマイナス面となりかねない部分が示されている。" と言っている。[5]

しかし、目標についての議論の広まりは中央銀行への圧力となるだろうし、日本銀行は少なくとも限定的な政策緩和のようなものを実施しなければならないだろう。それが政府の圧力をかわすためにこれまで用いられてきたようなものだとしてもだ。

このような動きのひとつとして、日銀は先月、銀行が使える3ヶ月の低金利な資金供給を倍額にした。[6] -これは日銀が比較的リスクが少ないと考える政策アプローチだ。しかしながら、アナリストによると、経済はデフレーションにはまってしまっており、ほとんどその効果はないとのことである。

ところが、日銀への政治的な圧力も火曜日に発表されたデータのせいで弱まりかねない。[7] このデータでは原油と原材料の値上がりによって、3月の卸売物価 (年率換算) の下落幅は、2009年1月以降、これまでになく小さくなっているからである。[8]

訳注 1: MP は Member of Parliament の略かと。

訳注 2: 正式名称は「デフレから脱却し景気回復を目指す議員連盟」。原文では "anti-deflation league". 以下、おもに、『金子洋一さんのブログ』から。彼の Twitter アカウントはこちら

訳注 3: 以下に4月13日会合の報道を。

訳注 4: 例えばここにある発言。「平成21年11月20日、菅内閣府特命担当大臣記者会見要旨」 (『菅大臣記者会見要旨』から。これが菅さんの"デフレ発言"についての記事のソースでよいのかなと。)

「私たち自身、デフレ状況という認識を私も申し上げているところで、政府としては、内閣としては、やはりこういう状況の中で金融の果たすべき役割も多いわけですから、今日も日銀の政策会議が行われるわけで、津村政務官が出席をすることになっておりますので、そういう政府としての認識は、機会があればというか、多分機会がありますので、きちっと伝えたいと。」

しか~し。菅さんの 4月バージョン ↓

「白川総裁とは政権スタートから私も当初は経済財政担当という立場で、現在はそれに加えて財務大臣という両面で色々意見交換を続けております。そういう意味で私自身は白川総裁、非常によくやっていただいていると。もちろんそれぞれの独立性とかそういうものをお互いが分かった上で、しかし同時に政府と日銀がある意味では一体となって、特にデフレに対する対応をしてきているわけで、そういう点では私は政府と日銀のこの間の対応は非常に共通の目標を持ってそれぞれの立場で努力するということで、かなりいい形で進んでいる、このように思っております。」 (「平成22年4月6日 菅内閣府特命担当大臣記者会見要旨」)

ちなみに11月20日の菅発言に対する白川発言はこのあたりにまとまってます →JBpress 「白川日銀総裁の正論と菅副総理の危機感 -デフレ問題めぐる2人の発言」

訳注 5: ソースとなる白川発言ですが、いかんせん対応する "日銀文学的表現" が不明なので、検索もできないというあり様でして...すまんそん。

訳注 6: 手前みそだけど、これ→ 「気あいを入れずに化粧をかさねる日銀」。追加緩和と称される "新型オペ" のより詳しい内容については、「日銀が新型オペ拡充」 を参照。ドラめもんさんの辛辣な文体好きなら「「ドラめもんアーカイブ 2010年03月」を "新型オペ" で Google 検索したキャッシュ(色がつくので便利)」。

訳注 7: これのことかな→日銀「企業物価指数」 (2010年4月13日発表、2010年3月分)

訳注 8: この最後の部分、night_in_tunisia さんは以下のようにコメントしています。

"night_in_tunisi: 最後の最後でイギリスのターゲットはコアCPIじゃないっていう弊害が出てるなぁ。。。FT.com / Asia-Pacific - Japanese MP group to seek inflation target http://is.gd/btmEk"

イギリスが使っている消費者物価指数 (CPI) の入口は、「Difference Between RPI, RPIX and CPI」。イギリスの消費者物価指数についてのしおりは 「Consumer Price Indices A brief guide」 (PDF直、1.3M、26頁)。←読まなきゃと思いつつまだ読んでない。イギリスの CPI 関連は Office for National Statictics のサイトにある 「Consumer Price Indices」からどぞ。

20100324

抜粋: ガイルズ・ウィルケス: 『Credit where it's due: 量的緩和を実体経済のために』

Giles Wilkes 『Credit where it's due: Making QE work for the real economy』(2010年 3月、CentreForum 96 頁、2.2M) から 「Executive Summary」のみ。

題名のとおり "量的緩和政策を改善しようぜ" という提案。要約しか読んでませんが、第三者による「まとめ」になっていて、ガイルズさんたちの提案は、「イングランド銀行は名目成長ターゲットを使うべし」と「信用リスクを緩和するために基金をつくりませんか?」 というもの。

イングランド銀行 (BoE) 側による「まとめ」には、金融政策委員会のスペンサー・デールさんの 『QE - ONE YEAR ON 』 (2010年3月12日、16頁、44kb) があります。

イギリスのみなさんは総選挙前なので、今回の危機対策を一旦整理ですな。「よーく考えよー、お金は大事だよー♪」っと。日本のよい子のみなさんはその動きに釣られないようにしましょう (自戒をこめて) 。ま、多くの人がマスメディアにひっぱられると思うので、カウンターが必要でしょうか。

BoE は、つい先日、今年 1冊めの四半期報告 『Bank of England Quarterly Bulletin 2010 Q1』M4 についてのレポートを出版しました。また、それとは別にふたりの副総裁講演も。チャールズ・ビーン副総裁 (通貨政策担当) の 『The UK Economy after the Crisis: Monetary policy when it is not so NICE』 と、ポール・タッカー副総裁 (金融安定担当) の 『Resolution of Large and Complex Financial Institutions』 がそれです。FT にも量的緩和を云々する記事や FSA による規制についての記事が (下記) 。まぁでもやはり、イギリス世間にとっては財政問題がホットなのかしらん。にしても、さっぱり読むのが追いつきません...

おまけの記事リンク:

BoE の量的緩和については → 『"Reasons to be Miserable" UKバージョン』 from FT など。

記事の題についてですが、「Reasons to Be Miserable (His Name is Marvin)」 という歌があるそうです。"Marvin"は、あの 『The Hitchhiker's Guide to the Galaxy』 にでてくる >> 偏執狂のアンドロイド << (←ここ注意) 。えーっとw、マービンといえば BoE のマービン・キング総裁。深読みしすぎですかね? 記事は「Have a good weekend everyone!」で締めくくられてます(笑) ちなみに歌詞はこちら ... "Reasons to be miserable: In my brain a pain, Very little turns me on, Marvin is my name..."。明るい歌...ではないようですw

FSA (金融サービス機構) については → 「FSAの強気なスタンスに City 街はびくびく」『「今は締め上げの時期ではない」 by FSA』 (ともにFTから) など。

今回は 『DeLTA Function』 の にゃんこワンダフルさんに感謝です。まずは原文にある「著者について」から。



著者について

ガイルズ・ウィルケスは CentreForum[1] の主任エコノミスト。2008 年 4 月に金融関係の調査員として当フォーラムに加わった人物だ。著書 『A balancing act: fair solutions to a modern debt crisis』 は "Prospect magazine think tank publication of the year for 2009" を受賞している。他に 『Fiscal Rules OK?』 (Alasdair Murray との共著) や 『Divided we fall: can the G20 save globalisation?』 (John Springford との共著) などの著作がある。

オックスフォード大学出身。1994 年に経済哲学 (Philosophy and Economics) を修了し、ロンドン・ビジネス・スクール[2] 在学中に MBA を取得、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス[3] で 世界史[4] の修士号を得た。この間、出版社に勤務した経験もあり、IG Group (spread-betting and derivatives company) のディーラやマネージャとしても 10 年の経歴を持つ。

訳注 1: CentreForum のサイトはこちら。Centre と Forum のあいだにスペースは入りません。爽やかガイルズくんは「Freethinking Economist」 というブログ (毎日更新) を書いている。

訳注 2: London Business School、ロンドン大学のカレッジのひとつ。MBA 関連コースの評価が高いとか。

訳注 3: LSE、London School of Economics、こちらもロンドン大学のカレッジ。ロンドン大学はカレッジが複数あって、それぞれ結構独立している。"ロンドン大学連合" という訳もあるみたい。そのほうがあってる気がします。

訳注 4: Global History。


参考に目次を。

Credit where it's due: Making QE work for the real economy

Contents

  • Executive summary
  • 1. How we got here: from inflation busting to quantitative easing
  • 2. Has QE worked?
  • 3. Other effects of QE beyond boosting spending
  • 4. Is QE dangerous?
  • 5. Making QE work better through `fiscal dominance'
  • 6. Conclusion
  • Appendix 1: insufficient demand, and its causes
  • Appendix 2: changing your mind about how it works
  • Appendix 3: assessing distributional consequences of asset growth
  • Appendix 4: auction prices for the same gilts before and after QE
  • Appendix 5: has the Bank given too much to the market?
  • Notes

Credit where it's due: 量的緩和を実体経済のために


本稿の要旨

「Quantitative easing (量的緩和、QE)」は、政策金利がゼロになった時、景気回復のためにイングランド銀行が採用した政策である。世の中に流通しているお金を増やして消費を促進するため、これまでに 2000 億ポンド[1] の銀行準備が新たに用意されてきた。これにより、イングランド銀行のバランスシートは住宅金融組合程度から数千億ポンド規模にまで拡大をつづけてきた[2] 。今日、わが国でもっとも重要な投資家はスレッド・ニードルの公務員なのである。[3]

このように膨大なお金を投入したにも関わらず、2009 年の実体経済[4] は急激な景気悪化に見舞われた。その激しさは政府が 2009 年度予算で見込んでいたものの 100 % 以上に達したのである。フランス経済とドイツ経済は (量的緩和なしで) 成長に転じたが、イギリスの景気悪化はさらに半年間も続いている。イングランド銀行による融資は経済回復に失敗し、ブロード・マネー [5] の伸びも目立つほどではない。量的緩和の効果がもっとも小さかったのは、イングランド銀行が影響を与えようとした分野、すなわち通貨供給量の増加であり、支出の増加であったのだ。

イングランド銀行のマービン・キング総裁によれば、量的緩和は従来の金融政策の「延長線上にある」とのことだ。ところが、量的緩和は支出にあまり影響しなかったにもかかわらず、従来の金融政策の延長とはとても思えないほどの副作用があった。政策がスタートしてから 9 ヶ月になるが、この間にイギリス政府が売った英国債は年額で史上最多にのぼっている - しかも政府は比較的小さい借入れコストで国債を売ることができた。その結果、資産価格が尋常でないレベルまで反発している。住宅価格がふたたび上昇しはじめ、株価も 50% 以上の値上がりだ。投資銀行 [5] にとっては豊年となり、あたかも危機がおきなかったかのように多額のボーナスが支払われている。

経済成長への影響がみられないとなれば、量的緩和の副作用が現実問題として取りあげられるだろう。そうなれば、金利の決定とは違って政治家もこれを無視できなくなる。中でも問題なのは、量的緩和によって財政政策と通貨政策の境目がよくわからなくなってしまう点だろう。緊急に支出が求められていた時、政府が安上がりに借金できたのは事実として喜ぶべきことだ。けれど今度は、イギリス大蔵省が財政の健全性を中央銀行に左右されるようになり、困った立場に立たされてしまっている。つまるところ、中央銀行と大蔵省がこのような関係にあると、両者の施策上の独立性が脅かされてしまうということだ。

一連の量的緩和政策は受益者への配分もゆがめてしまっている。量的緩和は多くの大企業や金融業に恩恵をもたらしてきた。社債を発行して資金調達するのは以前よりずっと楽になっている。大企業などによる大口の資金調達[6] は楽になって資産価格もうなぎ昇り、ロンドンの金融街は大もうけである。資産をたくさん持っている人たちにとって 2009 年はよい年だった。典型的な株のポートフォリオ[7] やロンドンの住宅価格は、ほぼリーマン・ショック以前の水準にもどっている。その一方、ほとんどの一般家庭や零細企業にとって、量的緩和で好転したなにかはまだ目に見えてこない。彼らこそ借りられるお金が少しでもないものかと目を皿のようにしている人々だ。そしてそれは、個人や中小企業向けの銀行[8] がいまだに弱気で融資を渋っているからなのだ。

さまざまな意味で、量的緩和は金融業界と富裕層に多額の補助金をわたすようにはたらいてきた。けれど、それと銀行の救済とは別問題。銀行の救済だったなら会計監査というしくみが使えるからだ。量的緩和によるお金の行く先の大部分は不透明で、誰がその恩恵を受けたのかよくわからず、納税者はほとんど蚊帳の外だった。わが国の金融政策当局は、おそらくそれを国家経済を救う唯一の道だと信じ、所得格差が広がってしまうような"力"を使って経済のある部分をえこひいきしているのだろう。しかしながら、彼らのこの姿勢がそもそも議論すべきもので、その議論の結果、副作用による損害が軽くなるとしたらどうであろうか[9] 。

わが国には、このような副作用のある試みにあまり頼らずとも、不況から力強く抜けだしていく可能性がある。ところが、経済の先ゆきがあやしいままなリスクも、それどころか景気が後もどりするリスクさえかなりの程度で存在している。財源は限界にきている。2008 年とはちがって、イギリス政府はこのさき 2、3 年は予算を引き締めるだろう。

イギリス経済はふらふらと後退していく運命なのだろうか。量的緩和が金融街に活をいれるだけでなく、経済全体を効果的に刺激できるかどうかがその鍵になる。では、現時点でのわれわれのアドバイスを以下に記すことにしよう。

  • : 不況のあいだ、イングランド銀行は名目成長 (率) を目標としてはっきり示すべきだ。現在、イングランド銀行は目標をインフレーションにしぼっている[10] 。しかしこのままでは、まだ効果の出ないうちに量的緩和が引っこめられるのではないかという市場の危惧を完全には振りはらえない。市場がそう予想していると、量的緩和政策はひどく弱体化してしまう。イングランド銀行が目標として高い名目成長率をきっぱりと口にすれば、人々は投資家が安心するまで (ひいては彼らが活気づくまで) 流動性[11] が維持されると信じてくれるのではないだろうか。

  • : 低インフレの不況だと、通貨政策と財政政策は力をあわせなければ効果を発揮できない。これはイギリス大蔵省が量的緩和を「信用緩和」[12] に変換するということだ。量的緩和に使われる資金の一部を使って、新しく「信用リスク基金」を設けるべきだろう。金融市場で問題がおきた際、必要な資金をすばやくそこに向かわせ、より早く需要が改善するようにしておくのである。

  • : 信用収縮[13] に苦しみ続けている分野は多い。「信用リスク」基金があれば、彼らへの資金源として有効に使えるはずだ。借入れ保証制度[14] はすでに成功をおさめているし、零細企業への融資につかう基金としてもよい。アメリカで論じられている社会基盤整備銀行[15] のようにしてもよいだろうし、銀行部門への追加資本注入に利用してもよいのだ。

訳注 1: 25兆円超くらい。

訳注 2: ググれば出てくるだろうけど DeLTA Function にグラフがある。「円高とデフレ、あるいは某中央銀行のサボタージュ」や「日米英の"銀行券ルール」参照。

訳注 3: スレッド・ニードル(街) はイングランド銀行がある通りの名前。Google Map で行ってみる?

訳注 4: real economy。「実体経済」は経済のモノやサービスの生産に関わる部分、かな? この文脈では経済の "金融" とは別の部分というくらいの意味でしょう、たぶん。

訳注 5: M4 のこと。『Measures of M4 and M4 lending excluding intermediate other financial corporations』 (PDF直リンク) をみると、2007年9月以降、BoE は M4 をブロードマネーとして扱っています。以下がイングランド銀行のサイトにある説明。引用元は「Monetary & Financial Statistics Brief Background to Tables」。より詳しくは、「Monetary & Financial Statistics Explanatory Notes」以下の M0M3M4 を参照。

  • Notes and coin (Table A1.1.1) is the UK丕サs narrow monetary aggregate, intended to capture money held for transactions rather than as wealth. The level of notes and coin in circulation is likely to be related to economic transactions such as retail sales.

    表「紙幣と硬貨」はイギリスの狭義の通貨総量 (ナロー・マネー) で、財産としてのものではなく、取引や決済に使われる通貨だけを把握しようとするためのものである。

  • M4 (Tables A2 to A4) is the UK's main broad monetary aggregate; M4 is held not only for transactions purposes but also as a form of wealth.

    Measures of M4 and M4 lending excluding intermediate other financial corporations are published in Table A2.2.3. These provide economically more relevant estimates of broad money and credit than M4 and M4 lending based on their traditional definitions. An article in this publication (http://www.bankofengland.co.uk/statistics/ms/articles/art1may09.pdf) sets out the background.

    M4 はイギリスの広義の通貨総量 (ブロード・マネー) の中心的なものである。M4 では取引・決済手段としての通貨だけでなく、財産としてのものも含まれる。

    M4 と"その他金融関連企業"をのぞいた M4 lending を表 A2.2.3. に示した。これらの数字をつかって広義の通貨総量と信用量を評価すれば、従来の定義からの M4 と M4 lending よりも、経済学的に意味のあるものを得られる。われわれが出版した『Measures of M4 and M4 lending excluding intermediate other financial corporations』 (PDF直リンク、以下に抜粋して翻訳) は、その背景について明らかにしている。

Measures of M4 and M4 lending excluding intermediate other financial corporations

By Norbert Janssen

はじめに

2007 年 9月、イングランド銀行は国内のブロード・マネー (広義の通貨総量) の計測法の変更について一般から意見を募った。これは、イングランド銀行がもちいるブロード・マネーの計測法を、急速に発達している世界の金融システムにあわせてアップデートするためであった。そこでの主な提案は、"その他金融企業 (OFCs、other financial corporations) " などが保有する「通貨」をブロード・マネー (M4) から除外することだった。これによって、名目支出により密接なかたちで「通貨」 (の総量) を計れるようになると予想された。本稿は一般公募後の進捗状況を報告するものである。"その他金融企業" による預金や彼らへの貸付け/融資を除外した場合、ブロード・マネーと信用をどのように計るか、その内容についてもまとめてある。そして最後に、このデータをより頻繁に発表するために、われわれがどんな作業をすればよいのかについても軽くふれている。

背景

「通貨」という概念は次の 3 つの条件を満たすモノや財産をさしている。まず、会計勘定や銀行口座、商取引の一単位となるものであること、そして価値を保有するものであること。さらにモノやサービスに対する支払い方法であることがその条件だ。わが国のように金融システムが発達している場合には、経済学的に意味のある通貨総量 (通貨供給量/通貨流通量/マネー・サプライ) は次のようにして計らなければなければならない。すなわち、対象を幅広く広汎にとり、国内で流通している紙幣と硬貨をふくみ、同時に銀行[1] や住宅金融組合[2] が保有する預金もふくめねばならないのだ。預金を含めるのは、銀行と住宅金融組合の負債のほとんどが、支払いの手段としても利用されているからだ。上の条件に照らしあわせると、これらの事業体は「通貨」の役割をはたすものをつくりだし、それを取引して金融業 (MFI、monetary financial institutions) を営んでいることになる。しかし、ある MFI から別の MFI への債務はその部門のなかで相殺されてしまうので、MFI どうしの預金はわが国のブロード・マネーには含めない。そのため、ブロード・マネーを計るときに通貨を保有している部門としてあつかうのは、国内に籍のある民間の非 MFI 事業体、例えば一般家庭や民間の非金融関連企業、それと MFI でないという意味での "その他金融企業 (OFC)" などになる。

OFC 部門には異なる経済活動をおこなう様々な企業がたくさんふくまれている。例えば保険会社や年金基金、証券ディーラなどの預金を預かっている企業や団体がある。それらは資産価格に影響を与える事業体にふくめてもよいだろう。これらの企業が一般家計や 他の一般企業とじかにやりとりすることで、名目支出はきまってくるのだ。

OFC には他のタイプのものもある。彼らの仕事は主に銀行と住宅金融組合のあいだの仲介で、 MFI どうしでみられるような取引を効率的に提供している。仲介業務をおこなう OFC には次のようなものがある。セントラル・クリアリング・ハウス[3] - 彼らは証券取引の決済/調整を手伝ってくれる -、証券化のための特別目的事業体[4] 、担保つき債権をあつかう団体 (MFI はこの種の団体を融資の資金源に使っているし、資産やリスクをバランスシートから移転するのにも利用している)[5] が最も一般的だ。

2007 年 9 月の一般公募での案は、仲介業務にたずさわる OFC を通貨保有部門[6] から除外するような提案だった。この案に沿ってブロード・マネーと信用を計れば、より有意義になると思われたからである。しかし、当時のデータには MFI 企業と仲介にたずさわる OFC 事業体の区別がない。そのため、この区分であきらかにできたのはブロード・マネーの概要だけであった。では次節から、2007 年以降、この計算方法がどう変遷してきたのか説明していくことにしよう。

訳注 5-1: イギリスで "bank"といったら何のことか気になって調べてみた。ところが FSA のサイトには "There is no definitions " とあって、"bank" が実際に何をさすのかはよくわからなかった。だから「bank = 銀行」なのかもわからない。つか、日本の「銀行」についても知らないんだけど。

訳注 5-2: building society。

訳注 5-3: Central clearing couterparty。取引の契約期間が長いと、状況の変化しだいで、債務不履行がおきるリスクが大きくなってしまう (例: 先物取引) 。このようなリスクを減らすため、"特定の機関" が全体の取引の損益を計算して、一定の会員のあいだで儲けた人→損した人のように金額の調整がおこなわれている。この「特定機関」がクリアリング・ハウス (たぶん) 。清算機関には種類があって、"Central" がついてるのは "1箇所にまとめて" という方式のことだと思う。日本では日本証券クリアリング機構や東京金融先物取引所、アメリカではシカゴやニューヨークの証券取引所が該当するみたいです。参考: 『クリアリング(清算)制度について』 (PDF直リンク、2003年)。日銀の『決済について』 も参考になります。

訳注 5-4: securitisation special purpose vehicles。英辞郎95には "資産買取り、資金調達証券発行、信用補完、収益配分を行う会社・組合・信託" とあります。

訳注 5-5: covered bond entities。

訳注 5-6: money-holding sector。

続いて、『インフレーション・レポート 2009年5月版』の13頁の Box から。 (←これは「いつか」そのうち...)

......訳注 5 は ここまで。しかし注釈が長いっすね...

訳注 6: wholesale financing。

訳注 7: ポートフォリオ。"The entirety of the financial assets (and usually also liabilities) that an economic agent or group of agents owns." 経済主体やそのグループが保有する金融資産のまとまり (ふつうは債務も含める)。金融資産には株式、社債、預金、現金がふくまれる。『Deardorff's Glossary of International Economics』より。

訳注 8: retail bank。

訳注 9: But if this is their view it should be debated - and damaging side-effects mitigated.

訳注 10: イングランド銀行 (BoE) 謹製の量的緩和政策のパンフレットには日本語訳があります(『イングランド銀行パンフレット「量的緩和とは何か」』、リンクが張れなかった)。現状、BoE は 2% を目安にインフレをコントロールしてる。"インフレの指標" が上下に 1% 以上目標からずれると、BoE 総裁は金融政策委員会 (MPC) 名義で大蔵大臣に「始末書」を書かねばなりません (「始末書」現物はPDFで公開されていて、こういうもの。"Open letter" っていうらしい。最近では 2010 年 2月のがあります。これはキング総裁の任期中で 3 回目で、リンク先の PDF には、その理由や MPC の見とおし、今後の政策についてもちゃんと書いてあります)。彼らが使っている "インフレの指標"(CPI インフレ率) の内容は、このリーフレット 『Consumer Price Indices - A Brief Guide』 (PDF直、1.3M、2004年) や 『The New Inflation Target: the Statistical Perspective』 (2007年) にあるものかと。たぶん後者を参照したほうがよい。

訳注 11: "The capicity to turn assets into cash, or the amount of assets in a portfolio that have that capacity. Cash itself (i.e., money) is the most liquid asset." 資産を現金に交換できるかどうか。もしくはポートフォリオに含まれる資産のうち、現金に換えられる資産の量。現金 (例えば、通貨) が一番流動的な資産。 『Deardorff's Glossary of International Economics』より。

訳注 12: 信用緩和/Credit Easing は、アメリカの連邦準備銀行が採用している政策。ベン・バーナンキ議長の 2009年 1月の講演でふれられた。両者はともに、ゼロ金利な状況でもちいられるが、量的緩和/Quantative Easing とは異なる政策。

僕はまだそこまで詳しく理解していないので、白塚重典 『わが国の量的緩和政策の経験: 中央銀行バランスシートの規模と構成を巡る再検証』 (2009年 1月) の 2ページ目にある注釈を引用してお茶を濁しておきます。

"Bernanke[2009a]は、クレジット市場を支援する Fed のアプローチを、最初に信用緩和と呼び、日本銀行が 2001~06 年にかけて実施した量的緩和政策との概念的な相違を指摘した。Yellen[2009]も、現在の Fed の政策実践と日本銀行の経験を比較すると「相違点が共通点を上回る」とし、Fed がバランスシートの資産サイドに注目し、特定の市場における与信フローを改善させようとしていることを指摘した。このほか、Bean[2009]は、BOE による量的緩和は、主として民間非銀行セクターから資産を買い入れるよう設計されており、日銀による量的緩和政策と異なるとしている。"

上記引用に出てくるバーナンキとビーンの講演は以下。Yellen さんのは白塚さんの参考文献リストには載ってませんでした。バーナンキさんはアメリカ連邦準備制度の議長、ビーンさんはイングランド銀行の副総裁。

訳注 13: 信用収縮...あとでしらべようっと。

訳注 14: loan guarantee schemes. 具体的には、ビジネス・イノベーション省 (Department for Business, Innovation and Skills、BIS) の零細企業支援策

訳注 15: 「National Infrastructure Bank」 たぶんアメリカで提案されている制度のこと。

20100317

FT誌: 気あいを入れずに化粧をかさねる日銀

FT.com の「BoJ move to be more cosmetic than radical」 の訳です。原文はこちら

...と訳していたら、「日銀:新型オペを20兆円に拡大-特別支援オペ終了に対応(Update2)」 from Bloomberg.co.jp (更新日時: 2010/03/17 13:25 JST) だそうで。

P.S. さっきトイレに行ったらヤモリ (小) がいました。この 10 数年ずっといるんですが、ちゃんと世代交代しているようです。5cm くらいのかわいいやつでしたよ。僕らの世代交代は、いったいどうなるんでしょうか orz...

2010/03/19 追記: "政府~電気会社" のあたりを訂正。東京電力の元副社長が日銀の審議委員になるようで。『過去のドラめもん』 を読んでいて判明。この場を借りて、ドラめもんさんに御礼おば。


2010年3月15日23時11分

気あいを入れずに化粧をかさねる日銀

ロビン・ハーディング、東京発

日本銀行は今週の政策決定会合でトリッキーな決定をおこなった。しかし、その内容は金融政策ではなく、おもに景気見通しの調整についてのものだった。

ウォッチャーの多くは日銀が金融政策をわずかにゆるめるだろうとみている。日銀の考えは、経済が弱りきってしまったわけでもないのに、デフレ対策として自分たちにできることは少ないというものだが、とにかくウォッチャーたちはそう予想している。

ところが、変化を求める声に耳をかたむけると、むしろ政治家の怒りをなだめ (soothe)、市場をしずめ (placate)、消費者を「ゆくゆくは自分たちがデフレを打破しますよ」と説きふせる (persuade) ために、日本銀行が物価の下落を心配しているようにきこえてくる。

東京にいる JPMorgan のエコノミスト、カンノ・マサアキは、「日銀から追加発表する可能性のほうが大きいでしょう、どちらかといえば。」と思っている。

ゴールドマン・サックスのエコノミストも、限定的な緩和が"ありそうだ"と判断している。最近では、政府からも"もっと気あいを入れろ"との圧力が微妙に高まってきた。ノダ・ヨシヒコ財務副大臣は"適切かつ柔軟な政策"を期待していると述べ、日銀は"危機感"を持つよう求めてもいる。

日銀の審議委員政府には電力電気会社の重役もいる。彼なら日銀の政策決定会合による緩和を支持するだろうし、その気持ちはエコノミストより強そうなものだ。

このような状況だが、日本銀行は自分たちがデフレと闘うとは絶対に思われたくないようだ。これでは市場はがっかり、消費者もデフレが続くと思って自分の影におびえるようになりかねない。そうなれば日銀はもっと政治圧力を受けやすくなるだろう[1]。

いっぽうで、日銀の政策決定会合には、日本経済の何が変わってしまったのか、そしてなぜもっと緩和したほうがよいのかを理解していない委員もいる。3月初めのロイター報道によると、「今のところ、1月の私の予想とくらべ、物価下落ペースに何か大きな変化があったようには見えない」、政策委員のノダ・タダオはそう述べたとある[2]。

3月15日月曜日の発表では、日本政府でさえ景気は「わずかだが次第に上むいてきている」としている[3]。実際には 1月末の物価は 1年間で 1.3% も下落しているのに。政府がこんな認識なので、日本銀行が政策を変えたとしても、物価の回復不足を指摘されてしまうかもしれないとはいえる。

日銀は国債を買って通貨を生みだすような積極策には反対で、政策はこけおどしなものになりそうだ。昨年 12月にはじめた 3ヶ月間で 10兆円 (1000億ドル、810億ユーロ、730億ポンド)、金利 0.1% の資金供給[4] を拡大するのが、彼らにとっては当然の選択であろう。しかし、無担保コールレート(オーバーナイト物) を 0.1% からさらにゼロに引きさげるなど、他にも選択肢はある[5]。

日本銀行は 3ヶ月間の資金供給を 20兆円にまで増やしてもよいし、その返済期日を 3ヶ月から 6ヶ月にのばしてもよい[6]。中期金利とオーバー・ナイト金利を押しさげるのが目的である。これらの金利をさげ、安く借り入れができるようにして経済を刺激するのだ。

しかしこのような政策には限界もある。3ヶ月や 6ヶ月の日本国債の金利 (利回り) はすでに 0.12 ~ 0.13% の低さになっているからだ[7]。

それに、これらの国債の金利を 0.1% にまでさげたとしても、その差はわずかだ。銀行からの融資がほしいという需要もまだ少ない。さらには、たとえ銀行が低い金利で安く資金調達できても、それを貸し出せる先がない可能性もある。

このような政策が機能するのは、日銀が無担保コールレートを「より長いあいだ、かつより低く」してくれるはず、と市場が信じているあいだだ。もし市場がそう信じてくれれば、イールド・カーブ (利回り曲線) 全体を引きさげることができるはずである。

欧米の金利が上がりはじめても、日本の金利が低いままなら円安になる。そうなれば輸出は有利になって、日本が輸出主導で回復する、より大きな起爆剤となってくれるだろう。

訳注 1: 日銀さん墓穴を掘ってるんじゃないの? というロビンさんの老婆心ですかね。

訳注 2: 野田氏のセリフの部分の原文は、"I can't observe any moves now that would show much change in the pace of price falls from my forecast in January"。ロイターの記事には、"野田委員は、個人的見方として「1月に私が想定した物価下落幅について、ここにきて、大きいとか、小さいとかはっきり言うほどの動きは観察できていない」としたうえで「1月、2月の決定会合での政策運営方針を、現時点で何か変えなくてはいけないということは一切ない」と述べた。"とある。FTのこの記事は、ロイターの記事をふくらませただけな感じ。ロイターの記事でも文中に出てるターム物についてもふれているし。

訳注 3: 『内閣府月例経済報告、平成22年3月』 (PDF直リンク) より引用すると、「景気は、 着実に持ち直してきているが、 なお自律性は弱く、失業率が高水準にあるなど厳しい状況にある。」平成22年3月15日発表。←ふーん... そしてそれに対する日経の記事はこちらから (Google の検索結果) → 『「景気、着実に持ち直し」 月例経済報告、8カ月ぶり上方修正』

訳注 4: 日銀より、12月2日付 『総裁記者会見要旨』 (PDF直リンク)

訳注 5: 無担保コ-ルレートは日本銀行の政策金利。参考: 「無担保コールオーバーナイト物」 by 野村證券など。ググってね。

訳注 6: 参考: 「コール市場」 by 『よくわかる! 金融用語辞典』。『金利の変動要因』 (PDF直リンク、拾っただけでまだ読んでない...)

訳注 7: risk-free rate = 国債の金利とした。たぶん、ここの「割引短期国債」の金利 (利回り) のこと。「日本の金利について調べる」 by 国会図書館 ← 勉強になりました...

インフレ目標2%を断行せよ