20100118

プリンストン大学: ハロルド・ジェームス教授一問一答

プリンストン大学のサイトにあるハロルド・ジェームズさんの人物紹介。部分的ですが訳してみました。原文はここここ。プリンストンのサイトでホームページとして紹介されているのは、Project Syndicate のサイトhttp://www.projectsyndicate.org/series/71/description でした。

YouTubeの「A Discussion of the Global Financial Crisis」ではジェーム「ス」と聞こえたんですがどうなんでしょ...


Harold James

略歴

ハロルド・ジェームスはプリンストン大学公共政策大学院(Woodrow Wilson School)の兼任教授(訳注1)であり、経済史・財政史・ドイツ近代史の研究者である。ケンブリッジ大学に学び(Ph.D.は1982年)、1986年本学に来るまでの8年間ケンブリッジ大学ピーターハウス(訳注: カレッジのひとつ)で教官を勤めていた。彼の著作には、二大大戦のあいだにドイツでおきた不況(depression)についての『ドイツの不況』(1986)、ドイツの国民性の変化を考察した『ドイツの国民性 -1770-1990』(1989、この2冊にはドイツ語版もある)、『ブレトンウッズ以降の国際金融における協力体制』(1996)などがある。ドイツ銀行の歴史についての共著『ドイツ銀行』(1995)は1996年にフィナンシャルタイムズ・グローバル・ビジネス・ブック・アワードを受け、その後『ドイツ銀行とナチの対ユダヤ人経済戦争』(2001)を記している。彼の近著『グローバリゼーションの終焉 -大恐慌の教訓-』(2001)は、中国語・ドイツ語・ギリシャ語・日本語(訳注: 邦訳『グローバリゼーションの終焉―大恐慌からの教訓』)・韓国語・スペイン語に翻訳されている。他にも、『ヨーロッパ再興-1914から2000年まで』(2003)、『窮地にあるローマ -国際秩序はいかにして政治の帝国を築いたか』(2006)、『ファミリー・キャピタリズム -ウェンデル、ハニエルとファルクス』(2006、ドイツ語・イタリア語・中国語の版がある)などの著書がある。2004年にヘルムート・シュミット賞経済史部門、2005年にはルートヴィッヒ・エドワード賞経済書部門を受賞している。ヨーロッパ大学協会のマリー・キュリー客員教授でもある。

訳注1 joint appointment professor: 複数の勤務先を対等に勤め、給料も半額ずつ支給される。

彼の著作の書評は以下を参照のこと。

Recent Publications

  1. The End of Globalization: Lessons from the Great Depression
  2. Family Capitalism: Wendels, Haniels, Falcks, and the Continental European Model
  3. The Roman Predicament: How the Rules of International Order Create the Politics of Empire
  4. International Monetary Cooperation Since Bretton Woods
  5. # Europe Reborn: A History, 1914-2000 (Longman History of Modern Europe)

Interview

2001年、教授は刺激的なタイトルの著書『グローバリゼーションの終焉』を出版しました。まず「グローバリゼーション」とは何なのかお話いただけるでしょうか?

それを語る人がどの分野出身かによってその定義は違っています。私は経済史畑なので、私が言う「グローバリゼーション」はモノ・労働力・資本・概念が国境を越えていくことを指しています。この言葉は現代史だけで使われるのがふつうです。私たちが示そうとしてきたのは、これまでにもグローバリゼーションの流れは存在したのではないかということです。そして、誰もが知っている19世紀末から第一次世界大戦と大恐慌までの期間にみられた世界的な流れはそれだったのではないかということです。グローバリゼーションのように世界の統合をともなう流れはもっと遡れるのではないか、これまでも似たような流れはあったのに、それをせき止めるようなできごとがあって終息してしまったのではないか、と私は思っています。

著書『グローバリゼーションの終焉』の内容について教えてください。

この本には、初期のグローバリゼーションの影響を受けた世界が、第一次世界大戦と大恐慌で再分裂していくようすが記されています。この時期に生まれた世界の一体化の流れは心理的・政治的に尾をひく重要なできごとだったのだ、というのが私の主張です。これ以降、人々は経済を国際的文脈で理解しようとしなくなり、国民国家という視点でものごとを考えるようになりました。その結末が国民国家への傾斜です。私がこの本で問題にしているのは、このような揺りもどしは再び起きうるのだろうかということです。揺りもどしはあり得る、というのが私の主張です。

すると、現代のグローバリゼーションと大恐慌は根っこでつながっている?

そのとおり。大恐慌はグローバリゼーションの終わりでした。モノ・労働力・資本・概念といったグローバリゼーションに付随するものは、その恐慌がおきる前から統制の圧力にさらされていました。保護主義的な関税の導入というようなかたちでです。たとえば、1930年にはホーリー・スムート法(訳注2)がアメリカで成立しています。人と資本を制限する新しい流れがこの時期台頭してきたのです。私がこの本で強調したかったのは、大恐慌の影響がもつグローバルな側面でした。多くの歴史家がこの恐慌をアメリカの事件として扱っています。この恐慌が他国に波及したと考えること自体に抵抗があるのですね。同じように、一国の不況と危機がどのように波及するのかについても抵抗があるようです。

訳注2: 1930 年米国議会を通過, 関税をきわめて高く (税率史上最高) つり上げることを意図したもの; 諸外国の報復措置を招き, 米国の対外貿易は急激に低下, 世界的大不況を一段と悪化させた from 研究社リーダーズ)

グローバリゼーションはよいことでしょうか?

グローバリゼーション全体でみれば、それは建設的なものだというのが私の考えです。グローバリゼーションによって世界中の人が裕福になります。とくに途上国にとっては恩恵が大きいでしょう。しかしそれが先進国側としては不安と心配のもとになっているのも確かです。反NAFTAの人たちや1999年シアトルの暴力的な反WTO運動などにそれが表れていますね。今日のアメリカ国内にも、中国とインドとの競争で一次産業とサービス業の両方で職が失われているという印象論がありますし。

グローバリゼーションは「必然的で元には戻せない」と言われてきましたが。

私が警告したいと思ってきたのはまさにその考えかたです。グローバリゼーションは必然なんかではないのです。そしてこれまでもグローバリゼーションは逆行したことがあるのです。これは憂慮し懸念すべきことで、けして喜ばしいことではないと私は考えています。このまえのグローバリゼーションに終止符を打ったのは戦争と不況だったのですから。

数年前、教授は「大恐慌の危険性はこの20年でもっとも大きい」という書き出しの論説を書いてらっしゃいます。今でもそうお思いですか?

もちろん。われわれはよく分からないようなリスクを抱え込んでいます。とくに銀行は自分のバランスシートからリスクを落とすのがとても上手くなりました。経済危機がおきた時、どうリスクが分散されるかあまり分かっていないと私は考えています。国際金融システムの弱さについてわれわれが理解しているとも思いません。貿易自由化に対する反動も非常に心配ですね。

大恐慌にはどんな教訓がありますか?

教訓として重要なのは、国家がさらなる繁栄を追うような時 - 外国を犠牲に「ひとり勝ち」を試みて成功してしまうような時 - その国の政治は多くの場合うまく機能していないということ。そして結局は他の国々と同じように自国の安定も失われてしまうということです。

いまの世界秩序に対する脅威は何でしょうか?

はっきりした脅威がふたつあります。ひとつはこの50年間の貿易自由化の波が逆行してしまうこと。中国の成長に対するわれわれの反応を見てください。多くの欧米人が中国はフェアな競争をしていないと思っています。中国製品を欧米市場から減らすべきだという話もききますね。私の考えだと、もうひとつの脅威は金融上の不安定やパニックの伝播です。歴史的に見るとこの伝播によって世界の分断がはじまっています。

近著『ヨーロッパ再興 -1914年から2000年まで』(2003)ではどんなトピックが扱われているのでしょうか?

奇妙なことに20世紀ヨーロッパ史をうまく概観した本がありませんでした。教科書で論じられているのは個々のイベントで、それが大枠の話のなかでどう位置づけられるのかが抜けていました。エッセイ風の書きものを見ても、20世紀ヨーロッパ史の概説はありますが、そこではたくさんの出来事が取りこぼされていたのです。私が意図したのは明確な主張のある本です。と同時にドイツやフランスだけでなく、ポルトガル・ブルガリア・ルーマニアで何がおきていたのか見てみようと思ったのです。

その著作の概要について話していただけますか?

この本で私が書いているのは、ヨーロッパの没落と崩壊、そしてその後の再興と成長です。ほとんどの人が20世紀の前半に注目します。この時期は恐ろしいほど壮大で悲劇的だからですね。わたしもヨーロッパが復興していく様子について書いてみようと思いました。この本では収斂が大きなテーマです。東西ヨーロッパがまったく別の道を歩んできたという通説に一石を投じてみました。前世紀にはヨーロッパ風味(sence of Europe)とでもいうような共通性や特色があったように思えるのです。それと1989年以降、政治・経済・人の行いや姿勢といった点で、東西ヨーロッパがいかにすばやく統合されてきたのかも描きたかったことです。

あえて21世紀のヨーロッパの役割をお聞きしたいのですが。

現時点ではあまり楽観的になれない、というのが私の立場です。20世紀末のヨーロッパは、ある意味で1914年の状態とかなり似ているのです。政治的混乱がふたたび頭をもたげてきていますし、世界秩序に対する声も当時と似ています。ヨーロッパの政治をみると、20世紀後半より今日のほうが急進的です。これは左派右派関係ありません。また、人口動態をみてもヨーロッパは大問題を抱えています。イタリア・ドイツ・スペインでは社会を支える若者が不足しています。高齢者に対して年金(retirement)や医療保険が維持できるかどうか。他国から若者の移住をすすめないと根本的解決にはなりません。しかし移民問題はとてもデリケートで、現代の進歩に対する激しい反動の引き金をひきかねない要素ですね。

9.11 は世界秩序にどう影響するでしょうか?

われわれの抱える問題は国境をこえて繋がり相互依存するようになっています。9.11はそれを目に見えるかたちで示しました。テロリズムや感染症は、もはや一国国内にとどまることはありません。世界の繋がりを人々が感じとれば、確実に人は安全を確保しようとするでしょうし、外界とのあいだに自分たちを守ってくれる壁が必要だとも感じるようになるでしょう。グローバリゼーションを支えるモノと資本の流れはことごとく潰されてしまうかもしれません。9.11以降、モノと資本の流れを制限しようという声が非常に強くなっています。例えば、アメリカ国内の外国人は安全保障上の懸念材料です。したがってビザ制度全体がかなり厳しくなりました。また、相当数の貨物コンテナが検査抜きで国内に運びこまれているのが現状です。これはテロの可能性を考えると明らかに問題です。そうなれば、コンテナに対する規制や制限、監視強化の動きもおきるでしょう。他にも、国際テロには国境をこえたお金の流れが不可欠です。そのお金の流れを制限しようというのは当然の対応ですよね。こうなってくると、グローバリゼーションのあらゆる面が問題になってしまいます。そして過去そうであったように、グローバリゼーションに懸念をもつ人は、安全保障を盾に、この統合された世界を縮小していくことができるのではないか、と私は思っています。

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