20100108

ハロルド・ジェームズ: 大きな銀行がさらに大きくなりそうなワケ

Project Syndicate から。 Why Big Banks Will Get Bigger の翻訳。


大きな銀行がさらに大きくなりそうなワケ

ハロルド・ジェームズ

フィレンツェ(訳注: FLORENCE という土地は世界にいくつかあるが...) - 大規模な金融危機がおき長く苦しい混乱が訪れている。しかしそれは意外な事実ももたらしてくれている。危機の余波から得られる教訓は、危機の行きつく先とあまり関係がないというのがそれだ。誰を責めるべきかは直感的にはっきりと答えられる。しかしその答えというものが、われわれの行きつくであろう新しい金融世界のイメージとみごとに一致しないのである。

この危機は2007年にはじまったアメリカのサブプライムローンに端を発するものである。そして、アメリカの「大きすぎて潰せない」銀行の存在は、多くの人にアメリカ的な金融資本主義もこれで終わりだろうと思わせることになった。ひどい損失を被った銀行はいたるところにあったのだが、長い目でみると、危機のおかげで規模が大きくなったアメリカの銀行が勝ち組になりそうだ(ここには悪名高く、まったくどうしようもない銀行がいくつか含まれる)。納税者のお金を使ってアメリカの金融資本主義が力をとり戻すというわけだ。

今回の金融危機の教訓は明らかなのに、なぜそれが活かされないのだろうか。それは金融活動のおもしろい性格による。金融業はもともとは競争の激しい業界なのだが、同時に競争が決してうまく機能しない業界でもあるのだ。

金融活動の核は、評判や情報ネットワーク、マーケティング能力(訳注: the ability to make markets as well as trade on them)にある。そのため大規模化が有利なのは明々白々、そしてそれが弱点にもなることは、この2年間でわれわれが見てきたとおり。結果として、金融市場は比較的少ない企業で占められることになっていく。

古きよき時代、金融業が安定していて国にしっかり守られていた頃、3つか4つの主要銀行がある寡占状態を形成することが多かった。例えば、イギリスならバークレイズ・ロイズ・ミッドランド・ナショナルウェストミンスター、ドイツだとコメルツバンク・ドイツ・ドレスナーがそれにあたる。公式非公式な金融カルテルで融資条件や金利を決めている疑いが常にあったわけだ。そして監査機関はこれに目をつぶるのが普通だった。

1990年代と2000年代、国際化が新しい風景を生みだそうとしていた。わずかな銀行が、ひとつになったグローバル市場をもういちど切り分けようとしていた。銀行はグローバル金融市場でベストポジションを得ようと画策し、一番規制の緩い場所に本拠をおくのが普通になった。

銀行は急速に成長し、その規模の大きさが問題になってきた。大規模化にしたがって、多岐にわたる膨大な業務管理が難しいのに気づいた。ソフトウェアシステムの互換性がとれなくなり、従業員はごろつきのようで、営業している国の文化の違いを把握するのに苦労するようになったのだ。

世界最大の銀行が問題を起こすのはほとんど必然だ。1990年代に世界最大だった銀行には日本のものが多い。いったい、第一勧業をいまだに覚えている人がどれくらいいるだろうか?

他の銀行より優位に立つにはどこに目をつければよいか、今回の金融危機から新しい考えが生まれた。銀行が得た教訓として最もはっきりしたのは、自分たちが失敗した際に会社を救うコストを負担してくれそうな強い力を持った政府が銀行には必要だということ。銀行にとって、規制うんぬんを最優先にするのはもはや最善策ではなく、もっとも財布の膨らんだ国はどこなのかが問題なのである。

とても大きな銀行が国土も政府規模も小さい国に拠点を置くと、その銀行には弱点がたくさんできてしまう。アメリカという国は、バンクオブアメリカやシティグループのような巨大怪獣を抱えるに足る大国だ。中国も国内に大きな銀行を抱えられる。たとえその銀行が信用の低い金融資産を山のように抱えていたとしてもだ。

ヨーロッパの銀行はもっと不安定な状況にある。アイルランドとアイスランドは悪い意味で有名な事例で、金融業界の問題が宿主である国家に転移し国家に壊滅的ダメージを与えた。フランスやドイツにおいてさえ、国際展開している大銀行の救済は両政府のキャパシティを越えている可能性がある。さらに加えて銀行が国際展開している場合、どの国がどの部分に責任を持つかという複雑な問題がおきる。例えば、ヨーロッパ中部にあってオーストリアの銀行の支配下にある銀行が、ドイツの銀行に買われて、さらにその後イタリアの銀行に買い取られたらどう扱えばよいのだろうか。

そのようなわけで、金融業の監督や規制が汎ヨーロッパ的に行われるよう(そして暗黙には、それが失敗した時に財政的な救済がおこなわれるよう)、国際的な大銀行は活発なロビーイングを続けている。

国家による救済が必要になった場合、現行のヨーロッパの競争ルールでは銀行から財産などを剥奪し規模縮小させねばならない。そのような銀行に対しては、2009年に世界最大規模の国際銀行だったロイヤル・バンク・オブ・スコットランドのように、EUの競争総局が切り詰め作業を行うのである。

銀行に対して自己資本比率のひき上げを求める圧力はかなり強まっている。ほとんどの場合、このような圧力があると、銀行が融資を減らし続けてしまい金融危機を悪化させることになる。

一方、アメリカでは政府によって大銀行による脆弱で小さな銀行の買収が奨励された。現在は銀行に圧力がかけられていて、アメリカ政府はなりふり構わず銀行に借り入れを増やさせようとしている。政府の対処はパラドクスだらけだ。われわれが金融システムに競争が必要であることを強調すればするほど、個々の銀行はリスクを犯すようになる。政府に介入の準備が整うほど、そして介入の規模が大きくなればなるほど、大銀行や大国がより得をするようになってしまうのである。

グローバル化が進んだこの20年、小さくても規制が少なく開かれた国が世界のリーダーにのし上がってきた。今後20年のグローバリゼーションは違った形になるだろう。金融世界の支配者を生みだすため、政府の資源を動かせるような強い大国が勝者だ。

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