以前訳したDailyMail誌の記事をこちらに移動。「The City Interview Monetary Policy Committee member Adam Posen "Why Britain avoided lostdecade."」
シティ街インタビュー: アダム・ポーゼンが語る、イギリスが失われた10年を回避できたわけ。
サム・フレミング、最終更新: 1:46 AM on 22nd December 2009
アダム・ポーゼンがイングランド銀行で働きはじめて3ヶ月以上も経つ。しかし、スレッドニードル通り(ロンドンの銀行街)の立派な事務所の床は、積みっぱなしの段ボールだらけのままだ。
さもありなん。ハーバード育ちの教授がイングランド銀行の金融政策委員に選ばれたのは、生涯に一度あるかないかの大惨事のまっただ中。事務所の整理整頓に頭を悩ませている場合ではないのである。
実際、歯に衣着せぬ43歳のアメリカ人は、まるで数ノットで進む政策提言量産マシーンのように働いてきた。着任初日からイギリスの金融システムの"徹底的な改革"に刈り出され、借金の8割がすでに首の回らない極小零細企業のものだという"不穏な"統計をふりかざし、強調して見せたのも彼である。
(ポーゼンさんの顔写真)
[キャプション] Plan B: ポーゼンは最悪の時期が過ぎたと信じている。けれど、彼はまだ、量的緩和が失敗した時に使う別の選択肢を見つけようとしている。
ポーゼンは彼が"プランB"とよぶ計画についても作業を進めている。イングランド銀行の量的緩和が失敗してぽしゃった時、信用の流れを回復させるような政策だ。今月はじめ、資産バブルを抑える新しい税金について彼に熱く語ってもらった。
休暇でアメリカに戻る前の18日、彼の話を聞くことができた。当局がこれまで行なってきた財政・金融的機銃掃射は、景気後退の軽減にはどうしても必要だったということである。
ポーゼンは「我々は最悪の事態を防いだんです」と90年代日本の"失われた10年"を引きあいに説明する。
「彼ら(日本人)は初期ショックに対して戦いを挑まず、減税や金融刺激策を使うこともありませんでした。我々はそれをやったし、それは機能しています。」
イングランド銀行の見通しでは今後2年はかなりしょぼいままな可能性はある。ポーゼンによると「景気過熱のシナリオより低迷のシナリオのほうがずっとイメージしやすい。」のだそうだ。
しかしながら、2000億ポンドもの現ナマが刷られたら(create)、インフレになってしまうんじゃないかと心配する人もいるだろう。そういう人は表計算ソフトを使ってもういちど考え直したほうがいい。経済指標をみれば、"インフレはほとんど起きてない"と言えるはずだ。
「インフレ期待や債券市場調査、実際の生産量が、目標から実質値で外れていくようなら、我々は行動を起こす。しかし彼ら日本人は行動を起こしていない。」 (訳注: イングランド銀行は2%のインフレ目標も設定している)
これまで、金融政策委員になったアメリカ人は DeAnne Julius(1997-2001) とポーゼンの2人しかいない。我の強いこの教授はもの言いも率直で、イングランド銀行の他のもっと寡黙な委員たちをしばしば狼狽させてきた。
だが、大蔵省が彼を採用したのは、ひとつには日本で起きた資産・金融危機について豊富な研究があったからである。このイベントはまるで2008-2009年におきた世界的な危機のゲネプロのようだった。日本が陥っているのがデフレなのは火を見るより明らかで、多くの経済学者がイギリスも同じほうに向かうのではないかと恐れた。しかしながら、今となっては、ポーゼン教授の勝ちはほぼ確実だろう。
ポーゼン曰く、
「イギリスの状況はデフレからはほど遠くて、結構なことです。」
「自画自賛ですが、我が国のインフレ率がユーロ圏やアメリカ連銀より高くなっているのは、我々がインフレ目標をより明確かつしっかりと定めていて、ゆえに他国よりデフレリスクが少ないからだと思います。実際、そこには真実がちょっとはあると思うんですが。」とも。
ポンドの下落もインフレ率の上昇を支えてきた。
「政策でコントロールする類ものではないんですが、微妙な調整のバランスの上になりたつ世界ではありますね。」
彼はそう言うけれど、金融業界を放置しておくわけにもいかないのである。ロンドンの金融街で持ちあがっている話に、規制強化とボーナスへの課税がイングランドの築いた財産を壊滅させかねないというものがある。これに対してポーゼンは冷たい。
「個人的にはそんな話はぜんぜん気になりません。金融システムを安定させるのに正しいことをする必要があるし、たとえ、その施策で金融業界の雇用や彼らの給料が減ったとしても、それは諦めるしかないこと。」
「誰だって自分の庭の芝生を踏みつけられればぶつくさ言うものです。ロンドンの高級住宅地に住むヘッジファンドマネージャが、みんなスイスのツークに引っ越していくなんて信憑性に欠ける話だし。」
さらに彼はこうもつけ加えた。
「我が国とシティとの恋路はこれまでも、いつもこんな感じでした。彼らの言い分には正当化できる部分もありますが、近代国家で終身雇用にこだわれば負け犬になってしまうものです。」
イングランド銀行の量的緩和にとって、ポーゼンは強力かつ忠実な支持者である。イングランド銀行は、英国債をピンピンの新札(fresh money)で買い、経済に活力を与えようとしている。民間債務の買取りにその多くが使われていたなら、彼にも気に入らない点があっただろう。ポーゼンによると、そこは現時点では"議論の余地がある"ものだそうだ。
「イングランド銀行が民間の債務を買取れれば、量的緩和政策は少しだけ効果を増すかもしれません。でも今のところ、我々はまだ自分たちの施策がうまく機能すると思っています。」
これをみるには企業の借入量が指標になるが、ポーゼン的にはさい先は明るいようだ。
「信用面で中小企業にかかっている負担は、通常の景気後退時と比べてそれほど酷いわけではありません。つまりこれは量的緩和が効いているとみてよいということです。」
この先、量的緩和政策が終わる時、英国債市場が"不安定"になる可能性はポーゼンも認めている。
「イングランド銀行がこの9-10ヶ月間に買取ってきた金額はたしかに巨額です。しかし、買取り停止は市場に激しく(deep and liquid)影響するものなので、仮に我々が買取りをやめるとしたら、その影響も単なる移行や推移(transitional effect)以上のものになるでしょうね。」
「それでも、英国債の需要は十分にありますよ。」と彼はつけ加える。
もちろん、政府債を消化しようという市場の意欲は、大蔵省がその(英国債発行による)巨額の借金について信憑性のある計画を立てられるかどうかで決まってくる。ポーゼンは次の政権が、それが誰であれ、正しく処理すると確信している。たとえ次の政権が保守であったとしても、彼は"楽観"している。
「実際、どこかの外国とは違って、イギリスでは成熟した政治が行なわれています。債務市場はその事実を反映して動揺していませんね。政治が信頼できるので、来年の選挙後まもなく、何らかの手だてがとられるでしょう。」
イングランド銀行は先月インフレレポートを発行した。そこでの成長見通しは、次期政権がとるであろう緊縮財政を公式には考慮していない。しかしながら、ポーゼンによると、このさき民間にかかるであろう圧力については、彼らも意識しているとのことだ。
「我々は一般家計や民間がいくらかは貯蓄を増やねばならないと思っています。」
「インフレレポートの予想には、経済全体がバランスを取りもどす動きと国民貯蓄の増加を矛盾しないよう組みこんであります。」
また彼は、
「イングランド銀行は、財政政策の内容まで含めて予測しているわけではありません。それに、財政政策が出てきて、その規模や構成がわかったからといって、イングランド銀行が予測を修正しなければならないというわけでもないでしょう。」
とも言い添えた。
彼の吸収力はまったくあなどれない。このヒゲの学徒は、近ごろ訪れたエセックスのダグナム地区が、"X Factor"(歌のオーディション番組)の最終選考に残ったステイシー・ソロモンの出身地だということも知っていたりするのだ。
ポーゼンは地元イズリントンのパブの常連客になったそうである。では最後に、数ヶ月間イギリスに住んだ経験から、我が国の将来について語ってもらうことにしよう。
「普通のイギリス人労働者にとって、70年代や60年代よりは暮らしむきがよくなっていくでしょう。ですが、この10年、15年のような暮らしは期待できないと思います。」
「ジャパニーズスタイルの失われた10年にはなりませんが、2、3年は成長が鈍化してもおかしくないと思います。」
我が国は、まだ経済的打撃から立ち直りはじめたばかりだ。たしかにその影響は多大なものである。しかしそのような中で、ポーゼンが描く将来は運がよいほうだとは思えやしないだろうか。