20100114

二都物語: ゴナイーヴとラバディ

ハイチで地震があった。それで思い出しひっぱりだして訳しました。The Economist の元記事『A tale of two cities: Gonaives and Labadee®』がいつのまにか読めなくなっていたので、こちらにコピペしてあった文を利用。皆さんはどんな感想を持つでしょうか。僕は結構好きですけどこういうの。「とりあえず豊かになってから考えよう」的な。

Gonaive と Labadee 両方ともYouTubeにビデオがあるのでみて見るもよし。でもLabadee行ってみたいよね!


二都物語: ゴナイーヴとラバディ®

その島、この世界の外につき。

2009年2月12日

ハイチにいる。でもハイチじゃないところにいるみたいだ。

ゴナイーヴ

砂埃のたつ通りをのろのろ車がくだっていく。ゴナイーヴは貧しい町のようだ。道の際を歩く人々の流れはとぎれることもなく、一見してうちひしがれているようにも見えない。角をまがる、すると突如坂の途中の泥の壁が目に入る。ブルドーザーとダンプが大通りの泥をとりのぞき、路地では何千もの人がショベルを手に懸命に働いている。しかし泥の帝国が消える気配はいっこうにない。頭上にのしかかるような泥の壁。その縁をよじ登ると近くには家の屋根があり、一番近い十字路のあたりに目をやると、ひび割れた泥で埋まった路地がまるで腹一杯餌を喰った大蛇のようにむこうまでのびている。

少年時代、無限という考えにとらわれたのを僕は覚えている。無限に1を足したら何になるの? そう父に尋ねたものだ。そうして数学について少し学んだわけだが、足しても引いても根本的に変わらない量をイメージするのは難しいままだった。でも目の前のゴナイーヴのこれがそうみたいだ。ナントカという名の援助機関やハイチ政府が泥をかきだしている。しかし、いくら泥を町の外に運び出そうとも、まるで泥の量は変わらないみたいだ。去年の夏の終わり、4つのハリケーンが立てつづけにやってきて雨を降らせた。嵐はまず土をびしょびしょにし、やがてそれを山の麓へと押し流し、町へと、町の家の中へと土を流しこんだ。500人が亡くなり、生き残った人には泥で埋まった町が残された。

ゴナイーヴはハイチで4番目に大きな町である。約30万人が住んでいる町だ。町は川の氾濫原にあって、ほとんど完璧にまるハゲの山に囲まれている。つまりこういうことだ。数年ごとにハイチにハリケーンが上陸するたび、山から町へと土砂が流れこむ。数ヶ月もすれば泥はからからになってしまう。たくさんの人が家を掘り出して土を積みあげる。他にやる場所もないから土は通りに積んでおくことになる、そして土の山がまた高くなる。そういうことだ。たとえ話ばかりになるが - まるでそれは神話か夢が現実になったみたいに見える。

「状況は実際よくない」とワトソン・セントルイスの言葉を通訳が教えてくれる。彼は耳がほとんど聞こえない大工の友だちに会いにいくところだ。壊れたドアをなおしてもらうらしい。彼らの生活は実際よくない。それがどれくらいよくないか僕には把握しきれないくらいだ。9月の嵐がやってきた時、「われわれ近所の96人は、あの二階建ての一軒屋の上でぎゅうぎゅう詰めでやり過ごしたんです」そうセントルイスは言う。(僕にもその屋根が見えたが、そんなに広い屋根じゃなかったのは確かだ)

それからだいたい4ヶ月たったが、彼の4人の子供のうち登校しはじめたのはたった1人だけ。彼自身学校の先生だが、残りの子の学費を払う余裕はないという。- 公立学校は控えめに言っても最低限のことしか教えてくれない。ゴナイーヴでは似たような話はごろごろしている。現世の聖人たち - 例えば、空き倉庫をつかって10日で病院を設置したりする国境のない医師団のような人たち - がここで活動しているけれど、目に見える変化はわずかだ。

僕がハイチにいた頃、たくさんの国際援助機関が帰りの荷物をまとめはじめていた。緊急事態終了、この給料じゃ町の再建まではできないよ、というわけだ。とは言うものの、2004年のハリケーン・ジャンヌが被害をもたらした時から、彼らはずっと働きづめだったのだ。しかし多くの人が、またすぐ戻ってくるはめになるんじゃないかと心配してもいる。町ごと引っ越すという馬鹿げた話もきこえてくる。誰もがそんなお金は金輪際手に入らないことを知っている感じだったのに。僕らは大金持ちのドバイにいるわけじゃあ全然ない。でもドバイなら、かたちだけでも解決の糸口はあったんじゃないだろうかと思う。

行きあう要人や専門家のみんながみんな、対策はまだまだ足りないと言う。2008年、国際社会はハリケーン対策のお金を倍の8億ドルに増やした。でもそれは、2004年のジャンヌの後でたくさんのお金が汚職で消えていて、去年の災害でほとんど何も進展してないことがわかってしまったからだった。

ラバディ

ゴナイーヴとは対照的な、フロリダを思わせる土地がそこから数百km離れたところにある。馬鹿でかくてキラキラしたものがでーんと沖に浮かんでいる。豪華客船だ。僕はハイチで2番目に大きなカペイシャンから30分車で行ったところにいる。ラバディだ(詳しく言うと「Labadee®」は近所の村Labadieからきている)。ビーチにはロイヤル・カリビアン・クルーズラインの客か従業員以外は立ち入り禁止。この会社はあたりの土地をハイチ政府から借りているのだ。ビーチに上陸した客がラバディを離れることはできない。会社の保険が適用されないからだ。

ぶつかるはずのふたつの世界が、ここでは責任保険と高いフェンスで注意深くへだてられる。フェンスの内側では、水・野菜・ハンバーガーなどすべてが沖の客船から運ばれる。地域経済に貢献しているが、ただの隔離というもの以上のなにかがここにはある。ラバディを非難する人は人種差別まがいだとかいう。それは旅行者の群れがほとんど白人で、接客以外立ち入り禁止のハイチ人は色が黒いからだ。

けれど事はもっと微妙だ。サウジアラビア女性が無人の土地でしか運転を認められないようなもの。ハイチっぽくないのは確かだがここはアメリカではない。ロイヤル・カリビアンは長いあいだ「ヒスパニョーラのラバディ」と宣伝してきた。格安で第三世界のビーチを借りている事実をうやむやにしている。ただの観光客をひっかける罠。そこには国の名前も記されない。彼らのパンフレットには「ロイヤル・カリビアンのプライベートな楽園」とあるだけだ。

「ラバディ®にはスペシャルなことがたくさん。」 ウェブサイトはそう煽る。スペルを変えたインチキ商標を使うようなふざけた態度はいったん脇におくが、ラバディ®のスペシャルな点がひとつだけなのはほぼまちがいない。ラバディ®はハイチ唯一の大規模リゾート、現地に大金を落とすスペシャルな土地なのである。クルーズ会社は2050年までそこを借り、上陸する旅行者1人につき10ドル政府に払っている(客は年間50万人ほど)。国の予算のほとんどがまだ海外援助だから、これはハイチ政府にとって重要な収入になる。また、このリゾートでは約500人が働いている。多くは近所のLabadieの村人で、僕の経験だとハイチで一番裕福なのがこの村だ。

村人が世界の基準で裕福という意味じゃないのは当然だ。水道はないし道らしいものもない(交通手段は歩きかボートで湾を横切るかだ)。村の裏手にもゴミがちらばっている。それでも、君もここにくれば何かしら楽観的なものを感じられるはずだ。それは職がもたらすものだろう。村はやる気のない物憂げな土地ではない。もし村に旅行者が来るようなことがあれば、知識を得るのとひきかえに、村人は少しくらいのお金ならをだすかもしれない。

居心地の悪さを感じないようにすれば、村に出かけるのはよいことだ。「ぜひラバディ®の魂をつかんでください。」とサイトにはある。ロイヤル・カリビアンおすすめの方法は「ラバデュージー」。特製シェイクで「この世界にはない」飲みものだそうだ。まるで存在しないLabadeeの綴りそのものじゃないか...

No comments:

インフレ目標2%を断行せよ