20100114

要約: イングランド銀行ワーキングペーパー『マクロプルーデンシャルな政策の役割』

イングランド銀行のワーキングペーパー『マクロプルーデンシャルな政策の役割』です。えー、このまま放置すると"やるやる詐欺"になってしまいそう... ということで、とりいそぎ訳してあった "Executive Summary" のみ校正しました。これで勘弁してちょ。BOXとして様々な事例がグラフ満載で提示されていて、僕なんかは見るだけでお腹いっぱい。専門知識がないと読みこなせないと感じたので途中でストップしてました。素養のある方々の参考になるはずです、根拠レスですけれど(笑)

ちなみに構成は次のようになっています。それと、サマリ文中に「だろう」とか「かもしれない」が多いのは、本論のほうで詳しく論じているからだと思います。

  1. はじめに
  2. マクロプルーデンシャルな政策の目的になりそうなもの
  3. システミックな問題の原因: financial frictions and propagation channels
  4. 集合的なリスク(aggregate risk)を管理するためのツール
  5. ネットワークリスクを管理するためのツール
  6. 堅牢でマクロプルーデンシャルな枠組みを築く
  7. 実際の施策上の課題
  8. まとめ

News Release The Role of Macroprudential Policy - Discussion Paperから原文と関連講演が入手できます。


マクロプルーデンシャルな政策の役割

A Discussion Paper
November 2009

This paper was finalised on 19 November 2009.

Executive summary

世界規模の金融危機がおき、現存の金融システムを土台から変えねばならないことが明らかになった。そしていま現在、国際的な金融システム(international financial and monetary system) は再点検されているところである。プルーデンシャルな制度枠組みも、その構成がどうであれ、それがシステム全体を扱えるようあらためて方向づけしてやらなければならないだろう。そしてこの先、金融機関が破綻した場合でも、社会が背負いきれないような損失が発生しないようにしなければならない。

UK Tripartite (訳注: 英金融サービス機構・イギリス大蔵省・イングランド銀行が構成する金融システムの安定のため調整機関)や世界中の専門家同様、イングランド銀行も各レベルの議論に貢献したいと考えている。最近のイングランド銀行による講演において、われわれは金融システムの構成を再チェックする重要性や金融危機に対処し解決する枠組みの改善、法的(訳注: regulatory)枠組みの見直しについて強調してきた。なかでも重要なのは、マクロプルーデンシャルなツールで何ができるのかということである。

金融危機がおきる前、国際金融システムではレバレッジが積み上がったり流動性のミスマッチがおきたりしており、システムがマクロ経済や市場の有害な変化に対して弱くなっていた。そしてこれが、今のわれわれが抱える問題の源になっていたのである。今後大切なのは、システム全体に関わるリスク、いわゆるシステミックリスクに対処できるようプルーデンシャルな規制(訳注: regulation)をもう一度方向づけてやることだ。これがマクロプルーデンシャルな政策の役割である。本稿において、マクロプルーデンシャルなツールをどう設計しどう展開していったらよいのか、新しいアイディアを提供していくつもりだ。

マクロプルーデンシャルな政策は現在の政策枠組みに欠けている要素である。過去数10年間、マクロ経済政策と個々の金融機関の規制とはあまりにかけ離れすぎていた。マクロプルーデンシャルな政策によってシステムの回復力が強化されていて、経済に信用が潤沢に供給されていたなら、今回の危機による損害も軽減できていたであろう。

金融的な安定とは、経済全般に対して決済システムや信用供給、リスク保証などの金融サービスを安定供給していくことだと考えられている。これがあらゆるマクロプルーデンシャルな政策ツールの出発点である。例えば資産バブルを未然に防ぐというような、より野心的な目標を思い描くこともできる。マクロプルーデンシャルな政策によって信用(訳注: credit)供給の勢いをなだめ、資産バブルを牽制できることもある。しかしながら、銀行システムの規制の目標を資産バブルの阻止だけにしぼるのは非現実的だといえよう。

システミックリスクには主にふたつの源がある。ひとつは、金融関連企業を集合体として見たときの傾向である。これらの企業には、信用供給に勢いがあれば自らを過度にリスクにさらし、逆に信用が供給されなくなると過度にリスクを嫌うという強い傾向がある。一般企業や家計にも同じことがいえる。金融関連企業がこのような傾向を持ってしまう理由は様々で、破綻すると市場に甚大な被害が出るような企業を市場が抱えている、というのもその理由だ。システミックリスクのふたつめの源は、個々の銀行というものは、自らが金融ネットワークの他の部分に与える波及効果を考慮しないものだという点にある。

本稿は、現行のミクロプルーデンシャルな資本配分(訳注: prevailing microprudential capital ratios)に加え、さらに資本課徴金(capital surcharges)を課すことで、景気の上昇圧力(cyclical overexuberance)の勢いをそぐことが実際に可能なのかどうかを検討していくことにする。このような課徴金は一般的な自己資本比率(headline capital requirements)に上乗せすることもできるし、もっと細かいレベル(いわゆる特定のタイプのエクスポージャーに関する"リスクウェイト")に適用することもできる。業種別アプローチをとるなら、上昇圧力がかかっている業種に照準をあわせて課金することもできるが、政策はより複雑なものになってしまうだろう。資本に課金する際の対象レベルをどれくらい細かくするのがよいかについては、注意深い考察が必要になろう。

※訳注: 意味不明ですみません、辞書には以下のように...
exposure: 損失可能状態[度, 投資額], エクスポージャー。特定の原因・事情に基づく損失危険にさらされた資金や状態: 特に
(1) (銀行・証券会社などの顧客または国への)与信総額(約束額を含む),債権残高
(2) (為替レート変動による)外国為替エクスポージャー

信用バブル時に自己資本比率を引き上げれば、システム全体に対して自己保証システムを形成することができ、システムの周縁部で盛んにおこなわれる借入れも制限することができる。しかしここで非常に重要なのは、このメカニズムが逆方向にもつかえるということである。つまり、不況の際に自己資本比率をさげてやれば、銀行に対して貸出しのインセンティブを与えることができ、金融セクター全体の貸し渋りを減らして、景気悪化や銀行の損失をくいとめられるかもしれないのである。

資本課徴金は、上記のように信用サイクルにおけるリスクの変化に対処するのにも使えるが、それとはまた別に、個々の企業がシステミックリスクの軽減に等しく貢献するよう使うこともできるだろう。例えば、金融サービス機構が検討しているように、銀行の規模やコネクション(connectivity)、複雑さに応じて課金することもできるのだ。このようなやり方を採用すれば銀行の破綻の可能性は減り、システムを補強することができるだろう。また、これは課金される企業にバランスシート構成を変えるインセンティブを与えることでもあり、彼らの破綻がシステムに与える影響を小さくすることにもなる。

実用上の大きな問題は、上記のようなねらいを持ったマクロプルーデンシャルな制度が施行可能か否かである。資本への課徴金は基準に照らして調整しなければならないだろう。つきつめれば、分析や市場調査やモデルに基づいた判断が必要だということでもある。そのため本稿では量的・質的な指標をいくつかとりあげ、それについて概説して要約し、今後の作業が有用なものになるようにする。おもに取りあげるのは、マクロ経済的なもの、金融システム全体に関わるもの、そしてそれらの相互関係についてのものになる。

マクロプルーデンシャルなツールが、いつも変わらぬルールで設定されるようなことはありそうにない。厳しい政治的選択をするために判断が必要になるかもしれない。したがって、システムの回復や信用の状態、セクターごとの債務状況、システムへの波及効果についても評価しなければならなくなる。そのどれもが状況によって時間とともに変わっていくものだ。手にした情報には重みづけが必要であり、為政者自身このツールによって金融機関の振舞いがどう変わるのかを学び、変わっていかねばならないのである。

また、マクロプルーデンシャルな制度には透明性や説明責任、予測可能性の点で限界があるという点も重要である。マクロプルーデンシャルな政策目標や政策決定のしくみ、そして決定事項そのものについても明瞭さがもとめられる。説明責任を果たすためのしっかりしたメカニズムも必要だろう。このようなマクロプルーデンシャルな制度の持つ"限定された裁量権(constrained discretion)"という性格は、マクロ経済政策の枠組みに似ているところがある。

もうひとつ重要な課題は国際協調である。マクロプルーデンシャルな制度が完全な効果を発揮するには、緊密な国際協調が必要になることもあるだろう。しかし国際協調がなかったとしても、マクロプルーデンシャルなツールを適切に使って、国内金融セクターの回復力を強化できることに変わりはない。

本稿は、規制当局や中央銀行による既存の施策を概観することによって、実施できるマクロプルーデンシャルな政策制度としてどんなものがあり得るかまとめたものである。施策について結論づけることはないし、特定の制度を推奨するようなこともしない。これらの政策を実行に移すまでには、その準備としてまだまだ多くの作業が必要だろうから。本稿の目的はそのようなものではなく、マクロプルーデンシャルな政策について、国内外でおこなわれる今後の議論に貢献することである。われわれイングランド銀行は、ここで述べられるアイディアや分析についてのコメントや批判を歓迎する。

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